Stab
□still waters run deep
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新しい家族ができた。
できたというか、拾ったわけだけど。
一晩悩んだ結果、猫をフリージアと名付けた。
翌日、遊びに来たナッティーが大喜びしてフリージアを抱き上げようとしたのだが、それがお気に召さなかったのか、フリージアはナッティーにはなつかなかった。なつかないどころか敵意すら持っているようで、ナッティーが近付けば身構える。
「何がいけないのかなあ?ほら、飴だよ?」
「猫は飴なんて食べないよ」
「うー……」
結局、ナッティーは手に持っていた飴を、自分で食べ始めた。
飴を噛み砕く音に驚いたのか、フリージアが雑誌を読んでいた私の膝に飛び乗ってきた。威嚇するように息を荒くしながら、ナッティーを睨み付けている。
ナッティーは仲良くなることを諦め、戸棚の中を覗き込んだ。
「クルーエル、クッキーない?」
「無いよ。昨日買い物行かなかったから」
「ぶー……」
これが更に追い討ちをかけたようで、ナッティーは本格的に拗ねだした。
厄介なことになる前になんとかしよう、と雑誌を閉じる。
「今から買ってくるから待ってて」
「やったー!」
すぐに機嫌を直したナッティー。単純で本当に助かる。
「フリージア、一緒に行こうか」
ナッティーと置いていくのも不安なので、フリージアも連れて行くことにした。
テレビを点けたナッティーに行ってきますと言い残し、まだ水溜まりがあちこちにある外に出る。今日はよく晴れているし、夕方までには道も乾くだろう。
フリージアは、まだ出会って二日目なのに、余所見をすることもなく私の横を歩いている。白い毛並みに日光が反射して光り、キラキラと輝いていた。
「はい、ありがとうございました」
「ありがと」
ランピーからおつりを受け取り、紙袋を抱える。
昨日買えなかったものも買ったので、二つの袋を片手に一つずつ持つことになり、結構重い。
店の外で待っているフリージアはちゃんとその場にいるだろうか、と心配しながら外に出た。
「え?」
「あ、クルーエル」
入り口の横には、入る前にはいなかったフリッピーがいた。
その腕の中にはフリージアがいて、フリッピーにすっかりなついている。
「もしかしてこの猫、クルーエルが飼ってるの?」
「うん、昨日から」
「そうなんだ。かわいいね」
今回は、以前のような気まずさは感じられない。
寧ろ、軍服の男が猫と戯れているという異様な光景に、思わず笑ってしまった。
そんな私を、フリッピーが不思議そうに見上げる。
「ごめん、あまりにも不釣り合いだから」
ああ、と納得したようにフリッピーが呟く。
「確かに見た目がね」
「猫好きなの?」
「動物の中でなら、割と好きな方かな」
答えている間も、フリッピーはずっとフリージアを撫でていた。
「名前は?」
「フリージア」
「フリージアか」
フリッピーが、フリージアを抱いたまま立ち上がった。
「フリージアって花の名前だよね」
「うん」
フリッピーはフリージアを地面に降ろし、私の方に腕を延ばした。
「家まで送るよ。重いでしょ?」
「でも……」
「いいからいいから」
断る暇もなく、フリッピーは私の手から紙袋を両方とも取った。
行き場の失った手をどうしようかと迷い、代わりにフリージアを抱き上げた。
先に歩きだしたフリッピーを追い掛ける。
「本当にいいの?」
心配になってもう一度尋ねると、フリッピーはうんと頷いた。
「散歩してただけだから」
「……そっか」
腕の中で、フリージアが小さく鳴く。
それを見て、フリッピーが微笑んだ。
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