Stab
□affection
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玄関のドアを開けると、いきなり視界が真っ赤に染まった。
今回は血じゃない。
「おかえり、クルーエル!」
「……なんで勝手に入ってんの」
大量の赤いバラの花束を手でずらすと、満面の笑みのシフティがいた。
「兄貴ダッセー」
ついでにリフティも。
取り敢えず家に入り、ルームシューズに履き替える。
「ちょ、クルーエル反応薄い」
「いきなりすぎて訳分かんない。まあ貰っとくけど」
項垂れているシフティの手から花束を受け取ると、落ち込んでいたのが嘘のように、彼はすぐに元のテンションに戻った。
今回も、リフティは呆れたように後ろからそれを見ている。
「ていうか、どうやって入ったの?」
「泥棒にそれ訊くなよ。企業秘密だって」
得意気に胸を張るシフティの後頭部を、リフティが素早く叩いた。
「なに威張ってんだよ。クルーエル、こいつクルーエルの下着漁ろうとしてたんだぜ」
「うるせーよリフ。お前だってちょっと嬉しそうだったじゃねえか!」
「わざわざ探す兄貴と一緒にすんな」
「はいはい、分かったから。喧嘩するなら外でして」
うちには花瓶なんてないし、ドライフラワーにしよう。
キッチンに花束を置いてから、三人分のコーヒーカップを出す。
「コーヒーと紅茶、どっちがいい?」
言い争いを続けている二人に尋ねると、二人とも驚いたような表情で私を見た。
「え、居ていいの?」
「駄目ならとっくに追い出してる」
「マジ!?んじゃ、俺コーヒー!」
コーヒーと叫びながら、勢いよくシフティがソファに座る。
俺は紅茶、とリフティもシフティの隣に座った。
コーヒーメーカーに水を入れ、お湯を沸かしながら棚から茶葉を出す。
沸いたお湯で先にカップを温めていると、インターホンが鳴った。
「俺出ようか?」
「うん、お願い」
話を中断して、リフティが立ち上がる。
玄関に向かうリフティの背中を見送り、先にできたコーヒーをカップに注ぐ。
その直後だった。
「お前……ッ!」
玄関から、リフティの切羽詰まった声が聞こえてきた。
続けて、ドサリと何かが倒れる音。
玄関から、ゆっくりと誰かの足音が近づいてきていた。
「クルーエル、ヤベェぞ……」
シフティの目には、恐怖の色が浮かんでいた。
「なんで、テメェらがここに居るんだよ?」
開いたドアの向こうには、血に濡れたナイフを持つフリッピーが立っていた。
安心する私とは逆に、シフティは固まってしまっている。
止めることはできるのだが、今私が出たらフリッピーとの関係を怪しまれてしまう。
どうしようかと悩んでいると、迷わずフリッピーがサバイバルナイフを投げた。
「う……ッ!」
低く唸った後、シフティがその場に倒れた。
火を止めてから、キッチンを出てシフティの死体を足で転がしているフリッピーに近付く。
「なんでいるの?」
「いつでも来ていいって言ったのは、お前だろうが」
「そうじゃなくて、……フレイキーといたじゃない」
フレイキーの名前を出すと、フリッピーが足を止めた。
「……公園でマイムが練習してて、失敗して火がついた棒で頭刺しやがったんだ。……出てきた時、真っ先にあの女を殺した」
今日は綺麗だろ?と、フリッピーが両手を広げる。
「クルーエルに会いに来るつもりだったから、今日は刺すだけにしたんだ」
「そう。でも、できればうちで死人を出してほしくないんだけど」
「今度から気をつける」
最後まで言い終わらないうちに、フリッピーに抱き締められた。
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