Stab

□affection
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この街に来てから、自由な時間ができた。
以前はゆっくりと読書をする時間なんてなかったから、引っ越しの際本を大人買い。その結果、新しい本棚が必要になり、ハンディーに新しく作ってもらうことにした。
仕事中にも関わらず、ハンディーは快く注文を受けてくれた。

礼を言ってハンディーの仕事場であるガレージを出、アイスでも買おうかと公園を目指す。
途中、反対側の歩道を、ランピーが自転車に乗って猛スピードで走り抜けていった。だが、いつものことなので、ランピーが危なっかしいことには慣れてしまった。

モールさんの家の前を通ると、ちょうど本人が中から出てきた。

「こんにちは」

「その声はクルーエルですね。こんにちは」

杖をつきながら、モールさんが道に出た。

「今日は暖かいですね」

「そうですね。モールさんはお出かけですか?」

「はい」

「気を付けてくださいね」

「ありがとうございます。では」

モールさんは、私とは反対の方向に歩いていった。
綺麗な人だな、と後ろ姿を見つめていると、背後で人の足音がした。

「あ……」

すっかり聞き慣れた声に、頭よりも先に体が反応する。

「フリッピー……」

気づけば、彼の名前を呼んでいた。
以前と変わらない軍服姿だが、瞳の色と表情が違う。

「クルーエル……」

どこか気不味げに、フリッピーも私の名前を呼ぶ。

「……こんにちは」

「こんにちは」

無理矢理作ったような笑顔に、何故か苛立ちを感じる。
挨拶だけして通り過ぎようとしたのだが、すれ違う瞬間、いきなり腕を掴まれた。

「何?」

「ちょっと、話があるんだけど……今から時間ある?」

この前のことを気づかれたのか、と心臓が嫌な音をたてた。

「……いいよ」



-†-




初めてフリッピーと出会った公園に、私達はまた二人でいる。
ベンチに座ると、間を空けてフリッピーも隣に腰を下ろした。

「で、話って?」

「この前のガーデンパーティーのことなんだけど……僕、途中から記憶がないんだ」

だろうね、と心の中で相槌を打つ。

「まだクルーエルには言ってなかったんだけど、僕……」

「知ってるよ、戦闘神経症なんでしょ?あの時、ギグルスが飛ばしたケチャップを見て、あなたは覚醒した」

「……また、君は殺されなかったの?」

「まあね。みんなが死んだら話し相手がいなくなるから、私はその役ってわけ」

「そうなんだ……」

同じ人間なのに、全然違う。
ここで銃を出したら彼は出てくるのだろうかという考えが、頭を過った。

「あのさ、訊いてもいい?」

私から声を掛けると、俯いていたフリッピーが顔を上げた。

「フリッピーは、もう一人の人格と意思の疎通はできるの?」

「うん。寝てる時は、夢の中で何度か会ったことはあるよ。毎回殺されそうになるんだけどね」

「それって……夢の中で殺されたらどうなるの?」

「どうだろ……そうなったら僕が――」

「あ、ふ、フリッ、ピー……!」

フリッピーが答え終わる前に、背後から第三者の声が聞こえた。
振り向くと、少し離れた所に、赤いワンピースの裾を握り締めて顔を真っ赤にしているフレイキーが立っている。

「フレイキー!」

さっきまでとは違って、フリッピーが安心したような柔らかい笑顔になる。
私達が二人で話していたのを見て、フレイキーが嫉妬してしまったのだろう。やはりフレイキーはフリッピーが好きなのだ。

「私、帰るね」

邪魔をしては悪いと、立ち上がってフリッピーに告げた。

「あ、クルーエルッ」

「じゃあね、フレイキー」

呼び止めようとしたであろうフリッピーを無視し、フレイキーに手を振る。フレイキーも控え目に小さく振り返してくれた。
確かに、男ならあんな風に女の子らしい子がいい筈だ。

「ごめん、僕が呼び出したのに」

「いいよ、べつに。またね」

「うん、また」

フレイキーに駆け寄っていくフリッピーに背中を向け、すぐに公園を出た。

途中、わざと覚醒させてやろうかとも思ったが、すぐにベルトから手を離した。
私が好きなフリッピーは、あのフリッピーじゃない。

だから、あの二人に嫉妬する理由なんてないじゃないか。


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