Stab
□two sides of the same coin
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明るい窓の外が視界に入り、昼間から何してるんだろうと自分でも不思議に思った。
まだ会って二回目なのに。
「おい、何考えてんだよ」
「いた……ッ」
フリッピーが律動を止め、左胸の突起を容赦無く噛んだ。鋭い痛みが走り、小さく悲鳴をあげる。
「こっち見てろ」
まるで、我儘を言う子供みたいだ。
そんなことを考えていると、私の顔の横に腕を置き、再びフリッピーが動き始めた。さっきよりも近づいたフリッピーは、快感のせいか少し眉間に皺をよせていて色っぽい。
でも、その目は何故か悲しそうだった。
「クルーエル……、名前、呼んでくれ……」
私の手を握り、フリッピーがすがるように小さく呟いた。
熱に浮かされた頭が、ようやく1つの結論に辿り着く。
「ふり、っぴー……!大丈夫、だから……!」
大丈夫、貴方はちゃんとここにいる。
途切れ途切れにそう言うと、フリッピーは一瞬目を見開いたが、安心したように笑った。
フリッピーは、きっと不安なのだろう。
いつ消えてしまうか分からない恐怖と、存在を否定される不安。
欲望のままにみんなを殺しても、最後には一人になってしまう。だから、自分の存在を認めてくれる人が欲しかったのだ。
「ふりっぴ、も、だめ……ッ」
「俺も、限界かもッ」
ベッドが軋む音が一際大きくなる。
仕事でしかこういう行為をしたことがない私は、こんなに激しい絶頂感は初めてだった。
「フリッピー……ッ」
もう一度名前を呼ぶと、フリッピーの熱い舌が口内に滑りこんできた。
息が苦しいにも関わらず、私も負けじと絡め返す。
直後、頭の中が白く弾け、後に続くようにフリッピー自身が私の中で脈打った。
握っていた手が離れ、代わりに体ごと抱き寄せられる。
「ヤベェ、中毒になりそうだ……」
耳元で、自嘲気味にフリッピーが笑った。
朦朧とする意識の中、酸素を取り入れながらフリッピーの背中に腕を回す。
「俺を名前で呼んでくれたのは、クルーエルが初めてだ」
「え……?」
体を起こして避妊具を捨てるフリッピーを目で追い、私もベッドに座りなおす。
「アイツらは、“俺”じゃなくてこの“体”のことをフリッピーって呼ぶ。ちゃんとした一人の人間として扱われたのは初めてだ」
ありがとな、と頭を撫でられた。
その言葉に、こっちが胸を締め付けられた。
「……フリッピー」
「ん?」
「いつでも、うちに来ていいから。私は待ってるよ、フリッピーを」
後ろから腕を回して、フリッピーの背中に額を当てた。
触れていないと本当に消えてしまうような気がして、急に怖くなった。
「そんなこと言われたら、しょっちゅう来ちまうぞ」
「いいよ」
「じゃあ、今度は俺が訊いていいか?」
フリッピーが体を反転させ、私と向かい合う。
「もし、表の方の俺が別の女を好きだったとしても、俺といてくれるか?」
「……勿論だよ」
返事と共に、フリッピーの頬に手を添える。
そのまま、引き寄せられるように、唇を重ねた。
こうして、二人のフリッピーと私の関係は始まった。
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