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□濃縮乾固
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宙を見つめ、珍しくぼーっとしているウタに背後から近付く。点在する血溜まりと肉塊を避けながら近付き、廃ビルの裏口の階段に座っているウタの頭の上に、買ったばかりの温かい缶コーヒーを乗せた。
ウタは何も言わず頭の上の缶コーヒーを取り、此方を見上げてきた。血がこびりついている派手な金髪の隙間から見える赫眼は、煌々と光っている。

「……リーダー、面倒くさい」

その一言から、周りに転がっている肉塊達が、ウタの噂を聞きつけて喧嘩を売りに来た他の区の喰種だと分かった。
ウタの隣に腰を下ろしてバッグの中からウエットティッシュを取り出し、缶コーヒーを包み込んでいるウタの手をとった。乾き始めている血を拭き取りながら、どう返すべきか考える。

「ウタは……強いから」

結局、出てきたのはこれだけだった。理由なんて、強い以外にない。自由奔放に生きるのが向いているウタを4区のリーダーとして縛るのは、私もあまり賛成していない。
赤く染まったウエットティッシュをビニール袋に入れ、また容器から引っ張り出す。もう片方の手も同じように拭き、次は頬や鼻頭に飛び散っている血に取り掛かった。
されるがまま、目を閉じて大人しくしているウタはなんだかかわいい。

「スースーする」

「我慢して」

人通りは少ないとはいえ、血塗れのまま帰るわけにはいかない。
顔と前髪、そして耳も拭き終え、私も冷えた指先で缶コーヒーを包み込んだ。

「寒いね」

缶コーヒーを開けながら、ウタが呟いた。

「雪、降るかな」

「んー、まだかな」

天気予報では、これから1週間は晴れだ。今年もホワイトクリスマスは期待できそうにない。
私も缶コーヒーを開けて一口飲むと、ウタが更ににじり寄ってきた。ぴたりと腕と腕がひっつく。

「明日、二人で出掛けよっか」

「……それは、デートのお誘いですか?」

「うん。イルミネーションも見に行きたい」

「わかった」

ウタがデートに行こうなんて言ったのは初めてだ。
今夜は寝られるだろうか、と表情には出さず、遠足前の子供のようなことを考えた。


۞



どの店のショーウィンドウもクリスマス一色で、流れている曲もクリスマスソングばかり。曇っている空を見上げ、もしかしたら今年こそホワイトクリスマスになるかもしれないと歩きながら考える。上ばかり見ていたので、腕を絡めていたウタが立ち止まったことで、ようやく目の前の交差点が赤信号であることに気がついた。

「この後、どうする?」

向かい側で信号待ちをしている高校生らしきカップルを眺めていると、上から声が降ってきた。ああ、と呟いて腕時計を見た。思っていたよりもウタの買い出しが早く終わったため、まだ14時前だ。せっかくの二人揃った休日なので、このまま帰るのも勿体無い。

「じゃあ、時間潰してからイルミネーション見に行こうよ」

「わかった」

信号が青になり、人が流れ始めた。
向かい側にいたカップルと、交差点の中央辺りですれ違った。まだ付き合いたてなのか、初々しさが感じられる。恋人繋ぎをしている二人を見ていると、かわいらしくて笑みがこぼれた。
初めて二人で出掛けたとき、どうすればいいか分からずウタが着ていた服の袖を握っていると、暫くしてそっと手を繋いでくれたことは、今でもはっきりと覚えている。
ふと思い立ち、絡めている腕をそっと下げていき手を繋いでみた。しかし予想以上にウタの指先が冷たくて、何事もなかったかのように元の位置に腕を戻す。

「なんでやめちゃうの?」

逃げた手が捕まえられた。やはり冷たい。

「ウタの手冷たい」

「なまえの手あったかい」

「もう、私の体温奪わないでよ」

不満を口にすると、愉しそうにウタが笑った。
私もつられて笑った直後、目の前に白いものが舞い降りてきた。




2014.12.17
 

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