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□黒と白と赤と
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彼女には、黒がよく似合う。
黒を纏うと、白い肌がより一層際立つのだ。
白と黒で統一している部屋で、彼女はとても鮮やかに映る。

「ウタ」

ふと、彼女が此方に顔を向けた。

「片方、あげる」

そう言うと、彼女は手を伸ばしてきた。
細い指先に挟まれて見上げてくるのは、人間の眼球。

「ありがとう」

彼女の指ごとそれを口に含んだ。
ゆっくりと指を舐めながら眼球を舌で掬いとる。
擽ったい、となまえが笑った。
強膜に歯が通る感触と、どろりと口内に広がる眼球の中身。視神経の切れ端だけ先に飲み込み、注意深く残りを咀嚼する。
そしてようやく、舌先に目当ての物が触れた。残っていた眼球の残骸を飲み込み、舌先に乗せていたそれを出した。

「ほら、なまえ……」

同じようにそれだけを取り出したなまえの掌に並べて乗せる。
小さくて透明なそれは、水晶体だ。

「綺麗。腐っちゃうのが勿体無いな。本当に水晶で出来てたらいいのに」

「水晶体が本物の水晶でできてたら、ピントが合わせられないよ……」

「まあそうなんだけどね」

なまえは水晶体の片方を目の前に持っていき、それを通してぼくを見た。

「腐ってしまうのが勿体無い」

なまえは微笑むと、水晶体をアンティークの小箱に入れた。中には、もう白く曇ってしまっている水晶体がいくつも入っている。
それを閉めてローテーブルの上に置くと、その隣にある皿から今度は右耳を取った。
一口でそれを食べたなまえの口から、軟骨が砕ける軽やかな音が響く。
普段は見ることが出来ない赫眼の彼女は、いつも以上に綺麗だ。

「いる?」

横顔を見つめていると勘違いされたらしい。
なまえは皿の上から左耳をつまみ上げた。
違うのだが、せっかくなので再びなまえの指から直接食べた。

「それにしても、雨やまないね」

窓に叩きつける雨粒を見て、なまえがうんざりした風に言った。
梅雨入りしたせいで、雨が続いている。

「部屋干し好きじゃないんだけどな。それに、これからの季節腐りやすくなるし」

皿の上に盛られている肉を見下ろし、なまえが溜息をつく。

「冷凍したら大丈夫だよ」

「でも、やっぱり新鮮な方がいいじゃない?」

なまえはソファから立ち上がると、キッチンからビニール袋を取ってきた。残っていた肉を袋に移し入れ、口をしっかりと結ぶ。またキッチンに行って冷凍庫に仕舞い、戻ってくる頃にはなまえの目は普段通りに戻っていた。

「さてと、今日は何する?」

休日なのに、外は雨。
出掛ける気力も削がれてしまった。
かと言って、今はマスクを作る気分じゃない。
隣に座ろうとしたなまえの手を引き、膝の上に向かい合って座らせた。
黒いキャミソールから覗く白い肌に、唇を寄せる。

「そうだなあ……ごろごろ、するとか」

鎖骨を甘噛みし、顔を上げる。
なまえは口元に笑みを浮かべると、顔を寄せて鼻頭にキスを落としてきた。

「賛成」


2014.06.12
 

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