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□美しい終末
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味見でもしているかのように熱い舌が何度も首筋を這い、時折気まぐれに吸い付いてくる唇。
そこを食いちぎられればひとたまりもない。無防備なこの状態でいると、いつか本当に噛みつかれるんじゃないかという気がしてくる。
飽きもせず、毎回毎回神威はこの行為してくるのだ。
柔らかい朱色の髪を撫でながら、無機質な天井を眺める。
すると、いきなり肌に歯がたてられた。甘噛み程度だが、初めての感触に肩が揺れた。
「ごめん、痛かった?」
謝っている割には、顔を上げた神威は満足気な表情をしている。
「びっくりした……」
「ごめんごめん。なんだか、急に噛みたくなって」
神威は呑気にそう言うが、こっちは軽く命の危機を感じた。
神威はさっき噛んだ場所を指で辿った。
「俺、ここ好きなんだ。柔らかくて、あったかくて、なまえの心臓が脈打ってるのを感じられて」
「そりゃあ、動脈の上だからね……。殺されるかと思った……」
「大丈夫、殺しはしないよ」
神威は尚も首筋を撫でながら、笑みを浮かべた。
「でも、もし今俺がここを切るか締めるかすれば、なまえの命は危ない。そう考えると、なんだか興奮するんだ……」
「……神威?」
背筋に寒気が走った。
「なんだろうネ……なまえの生死を管理してると思うと、すごく嬉しいんだ」
生きるも死ぬも神威次第。
恋人、なんて甘ったるい関係じゃない。私は神威に飼われているも同然なのだろうか。価値がなくなれば、私も殺されてしまうのだろうか。
それでも、私を見下ろす神威の目は普段と違って優しくて、視線には熱が籠っている。
何度体を重ねても、一日のほとんどの時間を一緒にいても、神威の考えていることは私には分からない。
「俺が怖い?」
私が何も喋らなかったからか、神威がそう尋ねてきた。
「……怖くない」
そう答えると、神威は更に笑みを広げた。
唇が重なり、髪の間を神威の指がすり抜けていく。神威は唇を離しても、体を起こそうとはせず私の髪を弄び続けた。
「鳳仙の旦那にはああ言ったけど、俺はなまえのことを手放すつもりはないヨ。俺にはなまえが必要なんだ。でも……どうしてだろう……なまえのこと好きなのに、壊してしまいたいって思うことがあるんだ」
「神威……」
碧眼に映る私は、自分でも気付かないうちに笑っていた。
怖くはない。喜んでいるのか、私は。
おそらく、これは優越感だ。誰に対してのものだかは分からないが、神威に愛されているのは私だけだと喜んでいるのだ。
「私はそう簡単に壊れたりしないけど?」
挑戦的に言うと、神威が額をくっつけてきた。
「知ってるよ。俺が選んだ女なんだから」
誇らしげな神威に、胸が熱くなる。
私は彼の側にいるだけで幸せなのだ。
だから、ふと思ってしまったのだ。
死ぬときは、彼の手で殺されたい、と――。
2014.03.17