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□貴方に染められる
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壊れ物を扱うかのように、少し骨ばった長い指が私の手を絡めとる。
私が見守るなか、私の指先が赤く染められていく。
それは彼の色で、丁寧に塗られている爪を見ていると、徐々に彼に浸食されていっているような感覚に陥る。
右手から順に塗っていき左手の小指を塗り終わると、征十郎は緊張が解けたように深く息を吐いた。

「うん、上出来だ」

マニキュアの蓋を閉め、征十郎はもう一度私の手をとって満足気に見下ろした。

「乾いたら最後にトップコートを塗るから、このまま暫くじっとしておくこと」

「はーい」

ムラもなく綺麗に塗られている指先を眺める。
いきなりネイルに必要な物を一式買ってきて塗らせろと言うものだから驚いたが、彼が選んできた色も綺麗で気に入った。学校にはして行けないので、夏休み中だけという約束で。
征十郎に固定されたままの手に息を吹き掛けていると、ふと視線を感じて顔を上げた。
部活中とは違って優しげな瞳に見下ろされ、胸が締め付けられる。

「やっぱり、なまえには赤がよく似合うな」

「え、そう?」

「ああ」

征十郎は私の手首を掴むと腕を広げるようにして体から離し、胡座をかいていた足を崩して近付いてきた。
反射的に身を引くと、征十郎の眉間に皺が寄った。

「何故逃げる」

「だっていきなり来るから」

「じっとしていろと言っただろう」

「だからって……すいませんでした」

口ごたえしても征十郎に逆らえる筈もなく、大人しく元の位置に体を戻した。
満足気に笑みを浮かべた征十郎が、再び距離を詰めてくる。観念して目を閉じると、すぐに唇が重なった。
啄むようなキスを繰り返されるなか少し目を開けてみると、同じように征十郎が薄く目を開けた。綺麗な赤と金の瞳に心が縛られる。
唇を離すと、征十郎は私の爪をチェックした。

「手が出せない状況のなまえを好きなようにできるというのはなかなか楽しいな」

「確信犯か……」

「まあね」

トップコートの蓋を開けながら、征十郎が得意気な表情をした。

「実はこれ、玲央に言われて買ったんだ」

「レオ姉に?」

「ああ。部の買い出しに行った時に見つけて、この色が僕の髪と目の色によく似ていると言われた。なまえは僕のものだといういい印になるんじゃないかと思ってね、玲央に教えてもらいながら買ったんだ」

赤くなった指先と、征十郎を交互に見た。
征十郎は他の人が聞いたら恥ずかしいような台詞を平然として言いながら、トップコートを塗る作業に集中している。他の男にお前は俺のものなんて言われたらむかつくだろうけど、征十郎に言われると不思議と悪い気はしない。
これが彼のものであるという印になるならば、思いっきり周りに見せびらかしてやろう。

「よし、これで完成だ」

「ありがとう」

手を延ばして、綺麗に塗られた指を眺める。
征十郎と同じ色に染まった指先が、視界の先にある彼の髪と重なった。
私の、一番好きな色。
私の体にも生まれた赤。
また少し、赤司征十郎という人間に染められた。












2014.03.02
 

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