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□白い世界の昼下がり
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温かい日差しと柔らかな風を感じて、目が覚めた。
どうやらいつの間にか寝てしまっていたようだ。
視線を下げると、うつらうつらとしているなまえがいた。その手は、ベッドに備え付けてある机に延びている。
机には黄色と黒の糸が、セロハンテープで固定されていた。
「なまえ」
体を起こして、なまえの肩を揺さぶる。二、三回呼びかけたところで、なまえがゆっくりと目を開けた。
「あれ、起きたんだ……」
「なまえも寝てたじゃないか」
俺がそう言えば、なまえは恥ずかしそうに笑った。
「ごめんごめん、最近寝不足でさ」
なまえが首と肩を回して背伸びをする。
「幸村が気持ちよさそうに寝てるの見たら、私も眠たくなっちゃって」
なまえは床に置いてあったスクールバッグを持ち上げ、中からルーズリーフの束を取り出した。
「はい、今週分」
「ありがとう」
科目ごとに分けられホッチキスで留められているルーズリーフを受け取り、サイドボードに積上げていた教科書と照らし合わせる。なまえがいるうちに数学や理科をしようと、数学の教科書を机に広げ、それ以外はサイドボードに戻した。
「それ、ミサンガ?」
せっせと黄色と黒の糸を編んでいくなまえに尋ねると、作業を続けながらなまえは頷いた。
「そう。あと12人分作らなきゃ」
「……もしかして、テニス部全員分作ってる?」
再びなまえが頷く。どうやら寝不足もこれが原因のようだ。レギュラーメンバー以外にも作るなんて、簡単なことじゃない。
「……ありがとう」
「マネージャーだからね。あ、そうそう」
なまえは制服のスカートのポケットに手を入れた。
「はい、これ」
出てきたのは、一本のミサンガ。
しかし、それは立海のイメージカラーである黄色と黒の糸でできている物に、水色と白の糸でできているミサンガが縫い合わせられていた。
「これは……」
「幸村用の特別仕様。こっちの水色のは……マネージャーじゃなくて、彼女として作ったから」
少し照れながら彼女と言ったなまえに、胸が締め付けられる。
ミサンガを受け取り、編み目を指でなぞった。
「本当にありがとう。大事にするよ」
「うん……」
「ねえ、せっかくだから結んで?」
「え、でも、みんなテニスバッグに付けてるよ?」
「今は入院中だから大丈夫」
左手を差し出してもう一度頼むと、なまえはミサンガを左手首に巻いて結んでくれた。
「……はい、オッケー」
病は気から、なんて言うけれど、俺は入院中にそれを何度も実感した。なまえがいてくれるだけ で、不思議と心も体が軽くなる。
この真っ白の世界で、唯一の色彩。
なまえに手を延ばし頬を撫でる。顔を近付けていくと、彼女はそっと目を閉じた。
感謝と愛をこめて、キスを贈る。
唇を離すと、こつりと額と額を当てた。
「大好きだよ、なまえ……」
愛してる、はまだ子供の俺達には少し現実味がないから、今はこれが精一杯の言葉なんだ。
いつか、胸を張ってかっこよく愛してると言えるその日まで、君の隣にいれますように――。
2014.01.30