short2

□illusion in illumination
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社会人臨也×高3彼女








周りを見回せば、恋人だらけ。綺麗なイルミネーションの光に包まれて、それはそれは幻想的な光景である。
しかし、今年はクリスマスイブもクリスマスも受験生の宿敵模試。今も無事一日目の試験を終えての帰り道だ。
受験が迫っているのは分かっているが、なにもクリスマスにまで模試を入れることはないだろう。
それでも、彼氏がいる友達は模試が終わると、すぐにデートだと言って帰っていった。優しい彼氏をお持ちなようで、羨ましい限りだ。
私なんて、臨也にクリスマスの予定を尋ねると、『え?仕事に決まってるだろ』と真顔で返されてしまったというのに。
せめてニュースで見た話題のイルミネーションだけは見ようと、学校の帰りに足をのばしたのだ。
スマホで数枚写真を撮り、パターンを変えてまた撮るを繰り返す。イルミネーションを綺麗に映すのはなかなかに難しい。

「あれ、湖宵ちゃんじゃーん」

いきなり横から声をかけられて、手元がブレた。カシャリ、とぼやけた写真が保存される。
声のした方に顔を向けると、狩沢さんが立っていた。

「あ、こんばんは」

「こんばんは!湖宵ちゃん一人?」

「はい、残念ながら」

苦笑を返すと、事情を察したのか狩沢さんがあららーと声を漏らした。

「湖宵ちゃんも大変だねえ。あ、これからゆまっち達と合流するんだけどさ、よかったら湖宵ちゃんも来る?」

数秒の間に、脳が過去の記憶を引き出して判断をした。このままついて行くと、クリスマスだからと言ってサンタのコスプレをさせられることは目に見えている。

「いえ、明日も模試があるんで、帰って勉強しなくちゃ」

「そっか、そうだね。大変だねー、受験生は」

愛想笑いで答えると、あっさりと狩沢さんは引き下がってくれた。

「じゃ、お勉強頑張ってね!」

ヒラヒラと手を振りながら、狩沢さんは行ってしまった。
暫く背中を見送ってから、携帯の写真フォルダを開いた。さっき撮ってしまったブレた写真を削除する。
ついでに撮った写真をチェックし直した。スマホは写真機能だけでもいろいろあって便利だな、と改めて実感する。
ずっと止まっていると、手袋をしていない指先がかじかんできた。そろそろ帰ろうか。
携帯をコートのポケットに入れ、最後にもう一度イルミネーションに目を向けた時だった。

「お嬢さん、一人ですか?」

背後から聞こえてきたのは、私の大好きな透き通った声。
あんなに寒かったのに、脈が速くなり体温が上がった。

「臨也……ッ!」

振り返れば、すぐ後ろに臨也がいた。
どうしてここにいるの?
そう尋ねるよりも先に臨也に抱き締められ、出かかった言葉を飲みこんだ。

「お待たせ」

耳元で、優しく囁かれる。
さっきまでの暗い気分も、一日中抱えていたいじけた気持ちも、友達への嫉妬心も、全部その一言で吹っ飛んだ。

「遅いよ……」

「ごめんごめん。てっきり湖宵のことだからすぐ家に帰ると思ってたんだけど、ここに向かってるっていう情報が入って急いで来たんだ」

間に合ってよかった、と体を離して臨也が私の頬を撫でた。

「え、どうやって来たの?」

臨也は悪戯っぽく笑い、私の手をとって歩きだした。

「勿論、トナカイに乗って」

「トナカイ?」

その直後、馬の嘶きのようなものが遠くから聞こえてきた。
成程、そういうことか。

「セルティに送ってもらったんだ?」

歩きながら、臨也が肩をすくめる。

「折角クリスマスっぽいこと言ったのに、夢がないなあ」

「そんなキャラじゃないくせに」

臨也は反論せず、相変わらず薄い笑みを浮かべるだけだった。
それでも、臨也が隣にいるだけで同じ景色でもより綺麗に見える。

「さてと、ケーキ買って帰ろうか。あ、ちゃんと湖宵のお母さんには言っといたから」

「用意周到だね」

「まあね」

周りには、幸せそうな恋人達。
私と臨也も、ちゃんと恋人に見えるだろうか。
せめて制服じゃなくて私服ならよかったのに、とローファーを見下ろして歩く。臨也といると大人になった気分になるのだが、私なんてきっとまだまだ子供なのだろう。
早く、大人になりたい。

「あ、そうそう」

信号で立ち止まり、思い出したように臨也が口を開いた。
ローファーから視線を上げ、臨也を見上げる。

「ブレゼントがあるんだ。楽しみにしといて」

「え!?私会えないと思ってたから何も用意してない!」

「俺はいいんだよ」

「でも……」

貰うだけでは申し訳ない。
後悔していると、臨也に頭を撫でられた。

「今夜湖宵といられるだけで、俺は充分だよ」

「臨也……」

泣きそうになった。
私も、臨也に会えただけで充分なのに。
繋いでいた手に、更に力を入れた。
来年のクリスマスも、彼といられますようにと願いを籠めて。
少し大人になった私と臨也の姿を想像すると、あんなに嫌だった模試にもやる気が湧いてきた。

「湖宵」

「ん?」

「メリークリスマス」

リップ音が鳴って、互いの唇が重なった。



次の日、私の左手に輝く銀色の指輪を見て友達が驚くまであと―――




Merry Christmas!
























クリスマス&受験生への皆さんへの応援ストーリーでした!

昨年の今頃、私も苦しんでいたなと思い出しながら書きました
ということで、受験生の方もそうでない方もメリークリスマス!

2013.12.24
 

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