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□花火に照らされた君の横顔
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「足痛い、下駄もう嫌だ」

愚痴をこぼせば、半歩前を歩いていた臨也が振り返った。

「文句言わないの。年に一度くらいしか履かないんだから、我慢しなよ」

「だって、歩きにくいし……」

しかも浴衣は見た目以上に暑い。
人の熱気で汗が止まらず、浴衣の下で汗が足の上を伝い落ちていく。歩く旅に汗で湿った足がこすれて気持ち悪い。
そんな私の反面、臨也は同じく浴衣を着ているのに、汗なんて全然かいていない。普段長袖ばかり着ているから慣れているのだろうか。ひょっとしたら、この人汗腺が無いのかもしれない。
私が苦労してついて行っているのに、人ラブな臨也は楽しそうに人混みを眺めている。花火なんて遠くから見ればいいのに、どうしてわざわざ会場まで来なければならないんだ。

「湖宵、折角綺麗な格好してるんだから笑いなよ」

臨也が立ち止まって、私の頬を引っ張った。その手を払いのけ、臨也を睨みつける。

「もう帰りたい」

「何言ってんの。まだ花火見てないでしょ」

「臨也は見ればいいじゃん。私帰る」

「ダーメ」

元来た道を引き返そうとすれば、手を掴まれた。そのまま、所謂恋人繋ぎというものをされた。振り回しても臨也の手は離れない。

「あのさあ、男一人で花火大会とか、湖宵はそんな悲しいことを彼氏にさせる気?」

「うん」

正直に答えると、臨也は溜息をついた。

「これだから出不精娘は」

「うるさい」

本当は来たくなかった。暑いししんどいし。でも、臨也が浴衣まで買ってきてどうしてもって言うからついてきただけだ。静雄と家でプロレス見てる方が何倍も楽しい。
明日も仕事があるのに。早く家帰って寝たい。

「ほら湖宵、行くよ」

臨也に手を引かれ、渋々足を踏み出した。
出店を覗きながらブラブラしていると、何度か知り合いに遭遇した。友人に出会えば臨也はここぞとばかりに彼氏面するし、京平には仲いいなと笑われた。おまけに絵理華とゆまっちには臨也とツーショットの写真撮られた。なんだか、弱味を握られたような気分だ。
最悪のケースを想像していたが、運良く静雄には出会わなかった。いや、最悪ではないか。二人が喧嘩でも始めてくれれば、その隙に逃げられたかもしれない。
冷やしパインを食べながらぼーっとしていると、ねえ、と臨也が声をかけてきた。

「なに?」

「花火を見た後のカップルってさ、自然とセックスしたくなるんだって」

噎せた。
いきなり何を言い出すんだ、こいつは。
臨也はいつもと変わらない薄い笑みを貼り付けたまま、周りにいるカップルを見回した。

「そう考えながら彼らを見るとおもしろいよね」

「いや、まったく」

やはり、何年一緒にいても彼の考えていることが理解できない。

「ってことでさ、今夜はうちに泊まるよね?」

「どこでどう話が繋がったらそうなるの?」

「え、俺の口からそれを言わせる気?湖宵ってば相変わらず鬼畜だなあ」

「おい、キモいぞ臨也」

パインが刺さっている竹串で目をえぐり出してやりたい。
臨也は特に気にしていない様子で、携帯で時間を確認し始めた。

「あ、ちょっとスピード上げるよ。もうすぐだ」

「えー」

臨也は私の不満を無視し、スタスタと進んでいく。
目的の場所に着く頃には、少し息があがっていた。捨て損なった竹串をどうしようかと見下ろしていると、上から名前を呼ばれた。

「湖宵、もうすぐだよ」

臨也がそう言った直後、爆発音のような音が響き渡った。
ほどなくして、金色の花が夜空を彩った。
あちこちから歓声が上がる。
どこで見ても花火にかわりないと思っていたけど、下から見る花火は迫力が違った。疲れなんか忘れてしまって、次々と上がる花火に目を奪われる。

「ね、綺麗でしょ?」

臨也の質問にも、素直に頷いてしまった。よしよし、という風に、臨也に頭を撫でられる。
暫くの間、臨也も口を開かなかった。様子が気になって横を見ると、いくつもの色の光に照らされた端正な横顔。
あれ、臨也ってこんなにかっこよかったっけ。そう思った瞬間、心臓が収縮した。
まるで、付き合い始めた頃のようだ。最近はドキドキすることもなかったから、なんだか新鮮な感情に思える。
ずっと見ていると恥ずかしくなってきて、花火に視線を戻した。
でも、顔の火照りがおさまらない。
暑いししんどいしいいことなんか無いと思っていたけど、年に一度くらいはこういうことも悪くない。





end









もう、8月もおわりなんですけどね(・_・)
まあ、このあとお持ちかえりされちゃうわけですね。花火を見たあとのカップルの話は、ほん◯でっか!?TVで本当に専門家の人がおっしゃっていました。本能って怖いよね。
 

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