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□金木犀
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※来神時代













明日は雨かな、なんて考えながら鉛色の空を見上げていたら、いきなり体が後ろに引っ張られた。
振り返ってみれば、手を繋いだまま臨也が足を止めて、辺りをキョロキョロと見回している。

「どうかした?」

「……いい匂いがする」

「いい匂い?」

臨也の言葉に促されるように、深く空気を吸い込んだ。
すると、爽やかな甘い香りが鼻腔を擽った。

「これ、金木犀の匂いだよ」

普段嗅いでいる都会特有の濁った空気ではなく、自然な透き通った香り。
引き寄せられるように、臨也の手を引いて匂いの源を探す。
角を曲がると、家の柵の間から金木犀の枝が見えた。
しかし、近くで来ると匂いが強すぎて嗅覚が麻痺しそうになる。

「よく解ったね」

「おばあちゃんの家にも植えてあったから」

「へえ。でも、ちょっと近くで嗅ぐのはきついかも」

「私もそう思った」

珍しく意見が合ったね、と顔を見合わせて笑う。
もう一度小さな金色の花を見上げていると、そろそろ行こうかと臨也が手を引いた。

元の家路に戻れば、また爽やかな香りに包まれる。
秋の冷たい風が吹き抜けていき、広く開いている臨也の胸元は見ているだけで寒そうだ。

「なんか、金木犀って臨也みたいだよね」

意図もなく呟くと、臨也が不思議そうに私を見下ろした。

「なにそれ、どういう意味?」

「遠くから見てる分には綺麗だけど、近付いてみるといろいろキツいものがあった」

「酷いなあ」

酷いと言いながらも、臨也の顔は笑ったままだ。
顔はいいのに性格が残念だ。

でも、それを知っているのは私だけだと思うと、大きな優越感を感じる。
私しか知らない臨也の表情や一面は、近付いたからこそ見えたものだから。

「ま、そういうとこを含めて臨也が好きなんだけどね」

「……湖宵って狡いよね」

「わざとだよ」

「だから厄介なんだよ」

呆れたように、臨也が溜息をつく。

それっきり会話は無くなり、足音だけが路地に響いた。
でも気まずさはなくて、手から伝わってくる臨也の体温が心地良い。
橙赤色に染まっている雲を眺めていると、あと一つ角を曲がれば私の家が見えるという所で、臨也が繋いでいた手に力を籠めて立ち止まった。

「臨也?」

地面を見下ろしたまま動かなくなった臨也を不思議に思い、顔を覗きこもうとしたら、急に手が延びてきて後頭部を掴まれた。
そのまま、ぶつかるような勢いで唇が重なった。
臨也の赤い瞳が嬉しそうに細められ、騙された、とようやく脳が理解する。

「さっきの仕返し」

悪戯好きの子供のような笑顔でそう言った彼も、私しか知らない折原臨也。













私だけの金木犀









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秋ですね(´Д`)
 

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