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□嫉妬は程々に
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※黒き影とともに番外編
時間軸とかはあまり気にしないでください
新宿の空には、もうすっかり夏の色が現れていた。
透き通るような夏独特の青い空と、それを背景に仕事をしている臨也は嫉妬してしまうほど似合っている。
しかも、今臨也は夏しか着ないグレーのパーカー姿だ。フード付きのパーカーを着ている臨也は、いつもより幼く見える。
そんな光景が一望できるこの席は、まさに特等席。
「そう言えばさあ」
「ッ!?なに?」
いきなり臨也が顔を上げ、吃驚して返事がワンテンポ遅れた。
臨也は特に気にする様子もなく、手を動かしながら言葉を続ける。
「もう始まってるんだっけ?水泳の授業」
「うん。先週から」
「……もしかして、湖宵も入ってる?」
「うん。2年は選択だから、自由なんだけどね」
「なんで?」
意味が解らず、なんで?と訊き返す。
すると、臨也は書類を置いて語気を強めた。
「なんで水泳なんか選んだの?」
「だって、他は陸上とかソフトボールとか、外の競技だったから」
「別に外でもいいじゃないか。どうせ湖宵は日焼けなんてしないんだし」
「日焼けしなくても暑いのは嫌だもん」
なんだろう、この会話は。
臨也は盛大な溜息をつき、ドサリと背凭れに体重を預けた。
「つまり、湖宵は無防備に男子生徒の前でスク水姿を晒してるんだ?」
「はあ?なにそれ。ていうか、臨也の口からスク水っていう言葉が出たことに吃驚なんだけど」
「真面目に答えなよ」
不機嫌そうに眉を寄せる臨也。
真面目に答えろと言われても、何をどう答えればいいんだ。
「授業なんだからしょうがないでしょ。それに、授業は男女別々」
「でも同じプールに入ってるじゃないか。湖宵が気付いていないだけで、きっとたくさんの視線が湖宵に向けられているんだろうね。いったい何人の男が湖宵のスク水姿をオカズにしていることか。考えただけでもおぞましい」
「臨也のその思考がおぞましいよ、私は」
次から次へと広がる臨也の妄想に、私は脱帽だ。
さっさと仕事を終わらせようとキーボードに手を置くと、パソコンを避けて臨也の手が延びてきて、中断するように掴まれた。
身を乗り出してきた臨也が、真剣な瞳で見てくる。
「体育の種目変えて。もしくは水泳の授業は休んで」
「何言ってんの?無理に決まってんじゃん」
「じゃあ、俺が直接学校に言ってあげるよ」
「やめてよそんなこと!モンスターペアレントじゃないんだから!」
後ろに退こうとしても、手首をガッシリと掴まれているこの状況では、臨也から逃れることはできない。
どうにか対策はないかと頭を回転させていると、タイミング良くインターホンが鳴った。
「あ!お客さんだ!私出るね!」
「こら湖宵!」
臨也が怯んだ隙に手を抜き、ダッシュで玄関に向かう。
モニターをオンにすると、画面いっぱいに舞流ちゃんの顔が映し出された。
『あ、湖宵さんだ!やっほー!』
「やっほー舞流ちゃん」
既に部屋の前まで来ているらしく、舞流ちゃんの背後には廊下が映し出されている。
助かった、と安堵して玄関を開けた。
「お邪魔しまーす!」
「訪(おじゃまします)……」
飛び込むように入ってきた舞流ちゃんの後ろで、九瑠璃ちゃんが静かにドアを閉めた。
面倒くさそうに臨也が顔をしかめる。
「何しに来たんだ、お前ら」
「写真が現像できたから持ってきたんだよ!」
「鮮(きれいに)……撮(とれた)……」
「写真?」
「ふふふー」
舞流ちゃんは満面の笑みを浮かべて、黒いショルダーバッグを開けた。中から茶色い封筒を取り出し、ソファの前にあるテーブルの上でそれを傾ける。
雪崩のように出てきた写真の束を見た瞬間、私と臨也は目を見開いた。
「湖宵さんのクラスって、私達のクラスの後に体育の授業があるんだ!だから、更衣室で毎回出会うんだよ!でねでね!」
「この前の授業の後で、湖宵さんのお着替えシーン撮っちゃった!」
爽やかに告げる舞流ちゃんに、目眩がした。
制服を脱いでいる時のものは勿論、ご丁寧に水着姿まで撮られている。途中からタオルを巻くから裸の写真は無いものの、下着まではバッチリ写っていた。
「だめ!これはだめ!」
急いで取ろうとすると、私よりも先に臨也が動いた。
写真を素早く掠め取り、臨也が封筒に仕舞う。
「男よりも厄介な奴がいることを忘れてたよ。まあ、これはもらっておくけど」
「え!?」
「写真も渡せたし、もう用は無いから帰るねー!」
「楽(ごゆっくり)……」
「ああ、御苦労様」
そそくさと帰っていく双子を、臨也はさっきとは打って変わって笑顔で見送った。
次の週、私は体育の先生からソフトボールに移るよう言われた。
end
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すっかり夏ですね
ということで、プールネタでした
臨也さんがその後写真をどうしたかは、ご想像にお任せしますw