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高校を卒業して来良大に進んだ私は、偶然スカウトされ某ファッション雑誌のモデルの仕事を始めた。約二年後、大学に通いながら父親の援助もありジュエリーブランドを創設。
我ながら目まぐるしい生活を送り続けてきたが、そのお陰で暫くの間は臨也のことを考えずにすんだ。
顔を合わせることも滅多になくなり、知り合いに会うとしたら新羅とたまにお茶をするくらいだった。
それでも会社を創った時はみんなでお祝いに来てくれ、記念すべき最初の作品は臨也に贈った。かなり気に入ってくれたようで、今でも両手の人指し指に銀色の指輪が光っている。
その後は会社の経営に追われ、大学を卒業する頃になってようやく軌道に乗り始めた。
忘れていた筈だったのだ。
否、忘れていたつもりだった。
簡単に忘れられるものではないと、解っていたのに。
♂♀
「あれ、湖宵……?」
「はい?」
会議が終わって久々に定時に仕事場を出たところ、背後から名前を呼ばれて振り返った。
「臨也……」
後ろにいたのは黒一色に包まれた臨也だった。
頭で考えるよりも早く、顔の筋肉が笑みを浮かべる。
「久しぶりだね」
「ほんとに。今は仕事の帰り?」
「うん。臨也も?」
「ああ」
まだ危ない人達と関わっているのか。
と言うより、臨也が池袋にいること自体珍しい。
「……なんてね」
「え?」
臨也は肩をすくめ、両手をコートのポケットから出した。
「実は、湖宵の仕事が終わるのを解ってて来たんだ。会議が終わったっていう情報を得てね」
「……」
「昨日読んだ雑誌に湖宵が載ってるのを見たら、急に会いたくなっちゃって」
トクン、と忘れていた筈の感覚が体を走り抜けた。
まるでタイミングを見計らっていたかのような不意討ちに、恐怖さえ覚える。
「湖宵の新しいマンションも見てみたいし、これから家に行っていい?」
「……静雄はいいの?」
「シズちゃんには言ってあるよ。今日はシズちゃんが夜まで仕事が入ってるらしくって」
これは一種の嫌がらせか。本人達の無自覚な行動により、私の気持ちは弄ばれてばかりだ。
しかし断ることもできず、私はいいよと頷いてしまった。
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