黒き影とともに
□もう一度
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春休みも終盤にさしかかった、暖かい日の午後。
新宿にある高級マンションに入っていく、一組の男女がいた。
マンションの一室に、インターホンが鳴り響く。臨也はパソコンの前から立ち上がり、モニターを確認した。
「ああ、やっと来たねえ」
臨也はマンションの入口のロックを解除した。
数分後。
「やあ、いらっしゃい」
「……どうも」
「こんにちは」
臨也は笑顔で、客人――紀田正臣と三ヶ島沙樹を招き入れた。
沙樹は嬉しそうにしているが、正臣は複雑な表情をしている。
臨也は二人をソファに座らせ、三人分のティーカップを運んできた。
「もう傷の方は大丈夫なのかい?」
「はい……痛みは消えたんで」
「それは良かった。沙樹も元気そうだね」
「はい」
紅茶の入ったカップを、二人の前に出す。
「名前は今取引先に行っててね。そろそろ帰ってくるよ」
名前の名前が出て、正臣の表情が和らいだ。
「そうですか……」
「だけどちょっと遅いなあ。厄介なことになってなきゃいいけど」
「どういうことですか!?何か危険なことでも……」
「ああ違う違う」
焦りを見せる正臣を安心させるように手を振る。
「そういうことじゃないんだ。今日は池袋に行ってるんだけど、いろいろ事情があってね。じきに解るよ。……ほら」
臨也の視線が玄関に移る。
二人が振り返ると、玄関の扉が開いた。
「ただいまー……」
少し元気のない名前の声がする。
「名前!」
正臣が立ち上がり、玄関へと走った。
「え!?正臣!?」
「名前!って……え?」
正臣の前には、少年が立っていた。
短い黒髪に黒縁の眼鏡をかけ、黒いパーカーにジーンズをはいている。
「おかえり名前」
放心状態の正臣の背後から、臨也が現れた。
「え?名前?」
正臣が何度も瞬きをする。
沙樹が正臣を押し退けて、少年に抱きついた。
「うわっ!沙樹ちゃん!?」
「名前ちゃん!久しぶり!」
正臣の脳内で、目の前の少年と名前が同一人物であることが、やっと繋がる。
「え!?嘘!?なんだよその格好?」
「まあまあ二人とも。取り敢えず座ろうか」
臨也が苦笑しながら言う。
沙樹も名前から離れて、名前が靴を脱ぐのを待った。
リビングに移動すると、名前は疲れきった様子でソファに座り込んだ。
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