黒き影とともに

□無神論者と神様
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‐新宿 某マンション‐

「ただいま……」

雨に濡れた名前を見て、波江が眉間に皺を寄せた。

「なんなの、その格好。まあいいわ。私はもう帰るから、あいつのことは任せたわよ」

「はい?」

波江はそそくさと帰る支度をし、すぐに帰っていった。

――任せるって……何を……?

しかし、名前の疑問はすぐに解決された。

「ああ、やっと帰ってきたのか」

二階から降りてくる臨也を見て、名前は目を見開いた。

「何も言ってくれないの?逆に傷つくんだけど」

「あー……それどうしたの?」

臨也の左目は、真っ青に腫れていた。
気にしているような素振りは見せず、臨也は淡々と答える。

「サイモンにやられたんだよ。ロシア語で説教っていうおまけ付きでね」

「ふーん……」

サイモンに殴られてよく生きていられたな、と名前が内心感心する。

「それよりさ、名前も結構酷い格好してるよ?また制服買い換えなきゃ」

「しょうがないでしょ。ちょっと待ってて。手当ぐらいはしてあげるから」

名前は臨也の横を通りすぎ、私室に向かった。
ルームウェアに着替えた名前は、臨也をソファに座らせた。
保冷剤にタオルを巻き、臨也の左目に当てる。

「派手にやられたねえ」

「ははは、暫く動けなかったよ」

「流石サイモン」

名前は一旦保冷剤を目から離し、そっとアザに触れた。

「いたッ」

臨也が顔をしかめる。

「ごめんごめん。眼球は大丈夫だよね?骨も大丈夫そうだし」

「たぶんね。でも、これじゃあ当分、取引とかに行けないなあ」

「私が行けばいいんでしょ。家で大人しくしてて」

臨也は小さくはーいと呟いた。名前は再び保冷剤を目に当て、ニヤリと笑った。

「沙樹ちゃんに裏切られちゃったね」

「……まあね」

少し不機嫌になる臨也。

「どうせ、名前がそそのかしたんでしょ」

「勿論。作戦は成功したし、これでちょっとは平和になるかな」

そう言った名前の手を臨也が握った。驚いている名前の手から、保冷剤を奪う。

「平和になんて、俺がさせないよ」

「……」

「言っただろう?俺は“戦”を起こしたいって」

臨也は名前の手を離し、立ち上がった。

「今日、森厳さんが来たんだ」

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