黒き影とともに

□“ダラーズ”
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「おつかれ、名前」

「私は何もしてないけどね」

騒ぎも静まり、集まっていた群集ももとの生活へ戻っていった。
名前も通信機を鞄になおし、臨也のもとへ向かった。
名前に声をかけた後、臨也は辺りを見回しながら呟いた。

「しかし、凄いよなあ……」

名前はその言葉に頷く。
路上に停まっていた一台のバンから、門田京平がおりてきた。

「よ、お二人さん」

「門田さん」

「久しぶりだねえ、ドタチン」

門田は二人の歩み寄って、辺りを見回した。

「今まで……本当にあれだけの人がいたのか?」

「この東京23区は、人の数の割に驚くほど狭いからね。人口密度世界一は伊達じゃないさ」

「それに、どこにでも現れて、どこにでも消えるから」

門田は質問に答えた二人を見て苦笑する。

「お前ら兄妹みてぇだな」

「えー。恋人って言ってよ」

「なんで恋人なのよ。それに、こいつの妹とか絶対に嫌だから。九瑠璃ちゃんと舞流ちゃんかわいそー」

臨也が眉間に皺を寄せる。

「なんで九瑠璃と舞流のこと知ってんの?」

名前は勝ち誇ったような笑みを浮かべた。

「私のこと調べられたから、調べ返してやった」

「あっそ」

――まるで痴話喧嘩だな。

門田が心中で呟く。
臨也と言い合っていた名前は、通りの入り口を見て叫んだ。

「セルティ!」

『見失った』

疲れた様子でPDAに文字を打ち、バイクに寄りかかるセルティ。

「まあ、ふっきれたみたいだな」

名前につづいて、臨也もセルティに近づく。

「いやー、幽霊ってのはコソコソとして突然ドドンと出るから怖いのであって、あれだけ派手に登場したんだ――多分、今日来た奴でお前を怖がる奴はいないさ」

「私もそう思う」

ヘルメットの埃をはらっているセルティに、臨也はからかうように言った。

「そういや、結局誰も殺さなかったな。あの鎌って何、切れないの?」

「何言ってんの」

セルティへの質問に、名前がかわりに答えた。

「ここで評判落とすわけないでしょ。今日の鎌は、両側とも峰だったんじゃない?」

「そうかそうか」

セルティは肩をすくめ、ヘルメットを被った。


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