黒き影とともに
□情報屋×情報屋=最強?
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「ちょっと押さないでよセルティ!」
『何も聞こえないぞ!?何をしてるんだ!?』
「落ち着いてセルティ!落ち着いて!」
セルティの首からは、普段の倍ほどの量の黒い煙が出ている。
「あいつ、名前に何かしたら殺してやる……」
セルティには落ち着けと言ったが、新羅の手には鋭いメスが握られていた。
「臨也って実は変態だからさ」
「誰が変態だって?」
「いっ、臨也……!?」
新羅の後ろで戸が開き、二人がようやく出てきた。
「話、終わったから。お邪魔したね」
新羅は急いでメスを白衣のポケットにしまった。
臨也の後から出てきた名前を、すぐにセルティが抱き締めた。
『大丈夫か?何もされてないよな!?』
「大丈夫だよ。それより、二人に話しておきたいことがあるんだ」
『話?』
名前は新羅とセルティに、無表情で告げた。
「私、この人と同居して一緒に仕事ふることにした」
「……え?」
新羅は、まさに開いた口が塞がらないという状態で、セルティは、ひたすら“・・・”(三点リーダー)を打ち続けている。
「聞こえなかったの?」
臨也はわざとらしく、名前の肩に手を置いた。
「明日から名前は俺の家で暮らすから」
「……は?ちょっと待とうか。どういうこと?」
名前は、ショックで震えている新羅に、淡々と説明した。
「私達同じ情報屋だし、二人でやった方が何かと都合がいいかと思って。だから、この人と一緒に働くことにした」
「そういうことだから、名前連れて帰るね。じゃ、また」
「いやいやいやいや!勝手に話進めないでよ!」
新羅は名前を止めようとするが、名前は微笑みながら首を振った。
「二人が心配してくれるのは嬉しいけど、これは私が決めたことだから」
新羅は名前をしっかりと見つめながら言った。
「本当に大丈夫なの?」
「うん」
力強く頷いた名前を見て、いきなり新羅が涙を流しだした。
『おい、なに泣いているんだお前は!』
「だって……名前はもう子供じゃないんだって思うと……寂しいような嬉しいような……」
「……ありがと新羅」
新羅は涙を流しながら、名前に抱きついた。
「臨也に変なことされたら、すぐに言うんだよ?」
「新羅は俺をなんだと思ってるのさ……」
臨也の質問に、新羅は涙を止めて真顔で答える。
「独占欲の強い変態」
「……酷いなぁ。岸谷家の人間は、みんな毒舌なの?」
「いや、臨也に対してだけだから」
「……もういいよ。行こうか、名前」
臨也が新羅にしがみつかれている名前に呼びかける。
名前は臨也について行こうとして、思い出したように、新羅とセルティを一度に抱き締めた。
「私なら、大丈夫だから。心配しないで」
二人は、頷くことしかできなかった。
「ああ、仕事頑張って」
「うん」
名前は笑顔で踏み出した。
非日常の中へ――。
♂♀
「あの……」
「なんだい?」
新羅のマンションを出て暫くしたとき、名前は前を歩く臨也に声をかけた。
臨也は歩きながら返事をする。
「明日からって本気ですか?」
「ああ。明日、荷物をとりにいかせるから、準備しといてね」
「やっぱり、いきなりすぎませんか?」
名前が問いかけると、臨也はピタッと足を止めた。名前もつられて止まると、臨也は進行方向を向いたまま言った。
「早いに越したことはないだろう?」
そしてまた、歩きはじめる。
名前はその背中に向かって言った。
「今日はここで失礼します」
「……そう」
臨也は振り向かなかった。
名前は臨也とは反対の方向に走った。
名前の足音が消えてから少しして、臨也は振り返った。
名前が走り去ったほうを見て、口角を吊り上げる。
「紀田正臣くん、ね……」
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