黒き影とともに

□ただただ堕ちる
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いきなりの引っ越し宣言に、昼寝をする筈の時間を引っ越し準備に費やすことになった名前。
時折あくびをしながら衣服を段ボールに詰める名前を眺め、機材を分解する手を止めて珍しく優しい微笑を浮かべた。

「眠い?」

「当たり前でしょ」

一睡もしてないの、と眉間に皺を寄せる名前。

「ごめんごめん。あっちについたらいくらでも寝ていいから」

「そう言えば、行き先を聞いてないんだけど」

「ああ、言ってなかったね」

臨也はベランダに出るガラス戸を開け、名前を手招きした。立ち上がって名前もベランダに出、臨也の隣に立つ。真夏の蒸し暑さが二人を包んだ。

「んー、こっからはビルの影になって見えないかな」

「……ちょっと待って」

キョロキョロと駅がある方角を見渡している臨也を名前が制す。

「引っ越しって、池袋なの?しかもそっちの方?」

「そうだよ。駅の近くだし、名前も学校に行きやすくなるよ」

「いやいやいや、死にたいの?」

臨也にとって最大の敵である静雄や、その他にも街で偶然遭遇したくない人物が多々いる池袋の中心部に引っ越すと聞いて、名前は訝しげに臨也を見上げた。

「死にたいわけないでしょ。これからの為に、最高の特等席につくんだよ」

名前の髪に指を通し、臨也は涼しい室内に戻った。
ガラス戸を閉める名前を待ち、言葉を続ける。

「もともとこっちの人間だし、これからはこっちにいる方が何かと便利だからね。ただ……名前に言っておきたいことがある」

臨也はソファに座り、自分の隣を叩いて名前に座るよう促した。それに従い隣に腰を降ろした名前の手を取る。
慈しむように名前の手を撫でながら、臨也は名前の瞳をまっすぐ見つめた。

「今回の事件で、俺は多くの教訓を得た。俺がこれからすることは全部、名前と俺自身を守る為にすることだって解ってほしいんだ。まず第一に、俺達の居場所は絶対に誰にも言わないこと。勿論、新羅や運び屋にも秘密にしておいて。帰ってくるときにも尾行には十分に注意すること。もし外で何かあったら、不本意だけどシズちゃんあたりに助けを求めること。こっちも不本意だけど、万が一俺に何かあったら、その時は九十九屋と連絡をとること。あとは、なるべく俺から離れないこと。解った?」

「……解った」

頭の中で臨也の言ったことを整理しながら、名前は複雑な表情で頷いた。
心底嫌っている静雄や九十九屋の名前を出したということは、それほど危険だということだ。
それを理解した名前は、きつく臨也の手を握り返した。


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