黒き影とともに
□齬離夢宙
1ページ/10ページ
『名前はさ、歳の差とか気になる?』
『いや、別に……。臨也見た目は実年齢より若いし』
『ほんとに?』
『疑わないでよ。新羅とセルティなんてもっと凄いんだよ?』
『まあそうだけどさ……』
『え、今更気にしてるの?』
『俺より、名前がどうかなーと思って』
『私ねえ……無い……かな』
『そっか』
『そうだよ』
『……』
『……』
『……』
『……なに?』
『名前ラブ!』
『うわッ!?』
『……あなた達、ちゃんと仕事してくれるかしら?』
♂♀
「名前、怒ってる?」
「……別に」
玉葱の皮を剥きながら、チラリとカウンターの向こうにいる臨也を見る。怒っているかと訊いておきながら、何故か嬉しそうにニコニコしていた。
「……気が散るからさ、テレビでも見てなよ」
「え、やだよ」
笑顔を崩さずそう言った臨也に、側にあった包丁を投げつけてやりたくなった。
しかしここで殺人犯になるのも馬鹿馬鹿しいと思い直し、作業を再開する。
「ねえねえ、何か話そうよ」
「特にない」
「誕生日はいつ?血液型は?好きな色は?ぶっちゃけ俺のどこが好き?」
「12月5日。AB型。黒。ノーコメント」
「酷いなあ、ノーコメントだなんて」
今すぐ静雄を呼びたい。こいつの駆除をお願いしたい。
「あのさあ、1ついい?」
「……なんでしょうか」
「昨日の夜気づいたんだけどさ……うなじにキスマークついてるよ」
臨也の言葉に、ニンジンをみじん切りしていた手が止まった。
ゆっくりと視線を上へ上げると、上機嫌で頬杖をついている臨也。臨也が言っていることは正しいのか嘘なのか。それは私にも解らない。
「あれ、疑ってる?」
「うん」
「酷いなあ、本当だって。ついでに……」
「消えかかってたからもう一回つけたよ」
「…………」
今度こそ、私は迷わず包丁を投げた。
,