黒き影とともに

□想思葬愛
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「ん……」

体に感じる圧迫感と、暑いくらいの温もり。

――またか……。

どうせ臨也の抱き枕状態になっているのだろう。いつものことだから気にすることもなく、二度寝体勢に入った。
臨也の腕の中で寝返りを打とうと格闘する。

――が、

「!?」

ベッドから落ちそうになって慌てて体を反転させた。
おかしい。
うちのキングサイズのベッドなら、寝返りを打っても余裕でスペースが残っている筈だ。

――こんな端っこで寝てたっけ?

――いつの間に……。

吃驚して暴れる心臓を落ち着かせようとゆっくり目を閉じると、いきなりシャツの裾から臨也の手がするりと入ってきた。

「もう……」

――朝からコイツは……。

――どんだけ元気なのよ、20代。

――高校生じゃあるまいし。

「ちょっと臨也……離して……」

腹部を這い回る臨也の手を掴み、無理矢理剥がす。

「んん……」

愚図るような声がして、更に臨也の腕に力が籠められる。

「臨也、いい加減に……」

――……違う。

振り向こうとして上を向くと、見慣れない天井が映った。
視界の隅には勉強机があり、壁には学ラン。

「…………」

「あ、おはよ……」

耳元で聞こえた声は間違いなく臨也だ。

だんだんと、昨日の記憶がよみがえってくる。

「あ……」

夢じゃなかった。
夢の中で寝て、また起きることなんて無い。
つまり、今までのことはすべて現実で、私はまだ8年前にいるということか。

だとしたら、今一緒に寝ているのは……。

「まだ帰ってないんだね。良かった」

私の思考を遮るように、首筋に臨也(高校生)が顔を埋めてきた。

「ちょ、何してんの!?」

臨也はベッドの下の布団で寝ていた筈だ。
ぐいぐいと肩を押すが、びくともしない。

「あー……いい匂いする……」

柔らかい黒髪が頬に当たってくすぐったい。
再びシャツの中に潜りこもうとしていた腕を阻止し、鳩尾めがけて膝を上げた。
しかし危険を感じたのか、臨也はさっと体を離した。

「危ないなあ」

「自業自得じゃない」

「未来の俺だったらいいくせに。夜中にベッドに入ったときは、臨也って言いながら抱きついてきたよ?」

「……そんなの知らない」

――やっぱりわざと入ってきたのか……。

「ていうか、名前って背高いね。寝顔は人形みたいに綺麗だったし。モデルのスカウトとかされたことないの?」

「……え?」

臨也の言葉で一年前のことを思い出す。
朝起きたら何故か臨也がいて、今と同じようなことを言われた。

「やっぱ臨也は臨也か……」

「何が?」

秘密、と言って体を起こした。



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