黒き影とともに
□Play Boy
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そう、それは本当に偶然と言える出会いだった。
‐4年前‐
「ね?いいだろう?」
夜の繁華街。
「お金はちゃんと出すからさあ」
鮮やかなネオンに照らされた街中。
その景色に似つかわしくない少女が、中年の男に話しかけられていた。
「こんなところで歩いてるってことは、そういうことなんでしょ?ちょっとくらいいいじゃないか、ね?」
――いや、違うし……。
溜息をつき、名前は視線を男から離した。
ただ、眠れないから散歩がてらに歩いていただけなのだ。それをこの男は、援助交際でもしていると勘違いしたのだろう。
――どうしよっかなあ……。
人通りが多い通りで、殴りつけるわけにはいかない。
しかし、値踏みをするような目で舐め回すように見てくる男に、名前の苛々はつのっていくばかりだ。
「あのねおじさん、本当に違うから。他をあたってよ」
「三万じゃ不満なのかい?なら五万出すよ!」
「いや、違うんだってば……」
埒が明かないと男に背を向けた瞬間、ぐいっと肩に手をかけられた。
――おえ、気持ち悪!
ぞわり、と鳥肌がたつのが解った。
「なら八万でどうだい!?八万で手を打とう!」
「ちょ、はなし――」
「オッサン、手どけろよ」
名前が最後まで言い切る前に、第三者の声が割って入った。
すぐに男の手が離れた。
いや、正確に言うと離された。
突如背後から延びてきた手が、男の腕を捻りあげる。
「あだッ!?あだだだだだッ!」
「汚ェ手で触んじゃねえ」
男は数歩退き、走って逃げて行った。
名前が驚いて振り向くと、ストローハットを被ったモデルのような少年が立っていた。名前よりいくつか年上だろう。
さっきまでのドスのきいた声とは違い、柔和な笑みを浮かべている。
「大丈夫だった?」
「え……あ、はい。ありがとうございました」
「いいっていいって。困ってる女の子は放っておけない性格なんだ」
「はあ、そうですか」
満面の笑みでそう言う少年に、名前は愛想笑いを返す。
「こんな時間に女の子一人は危ないよ?」
「家近いんで、大丈夫です」
「そうなの?じゃ、送っていくよ」
「いや、いいですよ」
「いいからいいから。あんなオッサンにまた声かけられたら駄目だから」
断るに断れず、結局名前は送ってもらうことになった。
「あ、俺六条千景っていうんだ!よろしく!」
「そうですか……」
「君名前は?」
「……岸谷名前」
「名前ちゃんか。名前ちゃんどこの高校?」
「……私、中学生です」
「えッ……高校生だと思ってた…」
これは偶然か、必然か。
その後、千景と名前は意気投合し、名前はTo羅丸とも関係を持つようになったのである。
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