黒き影とともに
□青春にスパイスを
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‐5月4日 朝‐
名前は耳元で鳴り響く携帯の着信音で目を覚ました。昨夜は疲れていたせいか、テレビを見終えた後そのままソファで寝てしまったらしい。
携帯のディスプレイに映る“正臣”という文字で、名前の眠気は吹っ飛んだ。
「もしもし?」
『おーっす!久しぶりー!』
「あ、帰って来たんだ?お疲れ」
『おう!つーかお前寝起き?』
「よく解ったね」
『寝起きの声してたからな』
笑う正臣の声に混じって、私も名前ちゃんの寝起きの声聞きたい、という沙樹の声が聞こえてきた。
『あー、はいはい、後でな。で、名前に聞きたいことあるんだけどさ』
「なに?」
少し間が空いて、躊躇いがちに正臣は言葉を紡いだ。
『最近……チャットで俺の名前見たか?』
「え?何度か来てたじゃん」
『あ、いや、そうか……変なこと聞いてごめんな』
「べつにいいけど」
名前は正臣のおかしな質問に首を傾げつつ、時計を見た。
――あ、四木さんとこ行かなきゃいけないんだった。
『起こしちまって悪かったな。じゃあ、また今度』
「うん、またね」
切る直前に、再び沙樹の声が響いた。
『ちょっと正臣!代わってって言 ――』
友人のやりとりに苦笑し、名前はゆっくりと立ち上がった。
――あ、メールだ。
メールの受信箱を開きつつ自室へと戻ろうとしていた名前の足が止まった。
名前の眉間に皺が寄る。
――とうとう始まったか。
ダラーズがあちこちで襲撃されているという内容のメールが、30件近く送られてきていた。
どうしようかと迷った末、名前は携帯を閉じた。
干渉しないと決めたばかりだ。
上も下もない、ルールもない、それがダラーズ。ここで自分が手を出したらダラーズはダラーズではなくなる。これはダラーズを創る際、自分達が決めたことだ。
――あとは帝人次第……。
小さく息を吐き、名前は二階へと向かった。
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