黒き影とともに

□街は今日も蠢く
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‐5月3日 朝‐

「何かあったら電話してきて。あ、あと取引先から連絡があったら、またこっちから連絡するって言っといてね」

「はーい」

コートを羽織り、臨也は名前に向き直った。

「名前は何か予定あるの?」

「今日は午前中狩沢さんとゆまっちと出掛ける。たぶんアニメイトとかとらのあな行き」

「ふーん、気を付けなよ」

わかってるよ、と名前は笑った。

「じゃあ、行くね」

「うん」

玄関へ向かおうとした臨也は、
あ、と何かを思い出したように立ち止まった。
くるりと体を回転させ、名前の背中に腕を回した。
名前の体が強張る。

「ちょっと充電しとく」

そう言って更に腕に力を籠めた。

「うん……」

名前はあやすように臨也の背中をポンポンと叩いた。
臨也はくすりと笑い、名前から離れた。

「はい、充電完了」

「そりゃあようございました」

臨也は靴を履いて、もう一度名前を見た。

「行ってきます」

臨也がそう言った瞬間、名前の背中に寒気が走った。

―― っ!

「 どうかした?」

黙りこんでしまった名前に臨也が問いかける。

「え、あ、なんでもない……いってらっしゃい……」

嫌な予感が名前を襲う。
それを隠すように、名前は笑顔を作った。
臨也は名前の様子を不思議に思いながらも、扉に手をかけた。

「それじゃあ、あとはよろしくね」

「うん」

ぱたんと閉じられた扉。
名前はさっき感じた不安を振り払うように首を振った。
部屋を見回すと、いつもより広く感じた。


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