黒き影とともに
□街は今日も蠢く
2ページ/4ページ
‐5月3日 朝‐
「何かあったら電話してきて。あ、あと取引先から連絡があったら、またこっちから連絡するって言っといてね」
「はーい」
コートを羽織り、臨也は名前に向き直った。
「名前は何か予定あるの?」
「今日は午前中狩沢さんとゆまっちと出掛ける。たぶんアニメイトとかとらのあな行き」
「ふーん、気を付けなよ」
わかってるよ、と名前は笑った。
「じゃあ、行くね」
「うん」
玄関へ向かおうとした臨也は、
あ、と何かを思い出したように立ち止まった。
くるりと体を回転させ、名前の背中に腕を回した。
名前の体が強張る。
「ちょっと充電しとく」
そう言って更に腕に力を籠めた。
「うん……」
名前はあやすように臨也の背中をポンポンと叩いた。
臨也はくすりと笑い、名前から離れた。
「はい、充電完了」
「そりゃあようございました」
臨也は靴を履いて、もう一度名前を見た。
「行ってきます」
臨也がそう言った瞬間、名前の背中に寒気が走った。
―― っ!
「 どうかした?」
黙りこんでしまった名前に臨也が問いかける。
「え、あ、なんでもない……いってらっしゃい……」
嫌な予感が名前を襲う。
それを隠すように、名前は笑顔を作った。
臨也は名前の様子を不思議に思いながらも、扉に手をかけた。
「それじゃあ、あとはよろしくね」
「うん」
ぱたんと閉じられた扉。
名前はさっき感じた不安を振り払うように首を振った。
部屋を見回すと、いつもより広く感じた。
,