黒き影とともに

□街は今日も蠢く
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「名前、俺暫く家出るから」

「は?」

臨也の言葉に、ファイルをめくっていた名前の手が止まる。

「旅行でも行くの?」

「まあ、そんなところかな」

臨也はコーヒーを一口飲み、再び作業を始めた名前を見た。

――君はここで、ゲームを引っ掻き回してくれよ。

蚊帳の外に居る臨也は、蚊帳の中の中心に立つ少女に、心の中で呟いた。


♂♀



‐5月2日 昼‐

『もしもーし!名前ー!俺だよ俺!』

学校からの帰り道。いきなりかかってきた電話に出ると、やけにハイテンションな声が名前の鼓膜を震わせた。
怪訝な顔をして、ディスプレイの名前を確認する。

『おーい!名前?ねえ聞いてる?』

「聞こえてるよ」

相手のテンションに苛つきながら、名前は素っ気なく返す。

「五月蝿いよ、千景」

『だって久しぶりに名前の声聞いたからね。会いたかったよ、我が勝利の女神!』

「いや、会ってないし。で、いきなりどうしたの?」

『え?ああ、今日名前の家に泊めてほしいんだけど』

歩いていた名前の足が止まる。

「……はい?」

『俺、池袋行こうと思っててさ。今夜泊めて』

「いや、無理だし」

名前は苦笑しながら言った。

「私、引っ越したんだ」

『え、なんで?てか、どこ?』

こいつ来る気だな、と名前は小さく溜息をついた。言おうか言うまいか。
女好きの六条千景は、お気に入りの女が他の男と暮らしているなんて聞いたら、確実に殴り込みに行くだろう。

「えーっとね……今は新宿に住んでるんだけど……」

『新宿!?学校は池袋にあるんだろ?』

「まあ、そうだけど」

どうしようかと考えていると、先に千景が口を開いた。

『なあ名前、なんか俺に隠してねえか?』

うっ、と名前が言葉に詰まる。
それが返事となり、千景は確信した。

『やっぱりな。で、なんで新宿?』

「……あんまり騒がないでよ?」

『はいはい』

意を決して、名前は千景に告げた。

「今は、同業者の人と一緒に暮らしてるんだ」

『……』

暫しの沈黙。

『……女だよな?』

その後絞り出すような声がした。

「悪いけど、残念ながら男だよ……」

『なっ……!なんだ――』

名前は千景が騒ぎ出す前に電話を切った。

――はあ……。

携帯をしまってから、今頃怒っているであろう千景を想像した。

――そう言えば、なんで池袋に来るんだろ?

そんな疑問が浮かんだが、どうせデートだろうと一人納得した。

その夜、六条千景が平和島静雄に喧嘩を売ったという情報が名前のもとに舞い込んできた。

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