黒き影とともに

□休日
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「はいはーい!いいですかー皆さん!三五八漬けっていうのは、コウジの質とそれぞれの材料の割合が命なんですッ!名前の通り、塩3、コウジ5、米8の割合で漬け床を作るだけです!簡単ですけど、色々な料理に使える魔法の漬け床なんですよッ!」

張間美香の指示通りにせっせと手を動かす少女達。

「名前さん、上手ですね」

鰰(ハタハタ)を器用にさばいている名前を、杏里が感心して見る。

「これでも小学生の頃から料理は私が作ってるからね」

「そうなんですか」

「そうなんだよー。名前の作る料理は、高級な料亭にも負けないぐらいおいしぐべらッ!」

「新羅邪魔」

新羅の鳩尾に拳を叩き込んで、名前は冷たく言い放った。お腹を押さえながら、新羅が顔を歪ませる。

「なんか……セルティのパンチに似てきたね……」

「そりゃそうでしょ。セルティが新羅を殴る姿を見て育ったんだから」

「ちょっと!変な誤解を招くようなことを言っちゃだめだよ名前!」

「いや、本当のことだし。てか邪魔だから。矢霧君を見習いなさい」

「うぅ……」

新羅は呻き声をあげながら、リビングに戻って行った。
再び鰰に向き直る名前。ジッとまな板を見つめて、携帯を取り出した。

「名前ちゃん、何やってんのー?」

狩沢が名前の手元を覗きこんだ。

「鰰を写メるんです」

「え、なんで?」

名前はニヤリと黒い笑みを浮かべた。

「臨也は死んだ魚の目が嫌いなんですよ。顔をアップにして撮って、メールで送ってやります」

「名前ちゃんが黒い!?いや、これはこれでアリかも!てか攻められるイザイザもいい!いいよ名前ちゃん!頑張って!」

「はい!」

名前は撮った写真をメールに添付して、今頃パソコンに向かっているであろう臨也に送った。

『何をしてるんだ名前……』

「え。嫌がらせ?」

『大丈夫なのか!?』

「大丈夫大丈夫」

名前は鼻歌を歌いながら携帯を閉じた。


♂♀



‐新宿 某マンション‐

「あ、名前からメールだ」

「いちいち報告しないでちょうだい」

「一人言だよ、一人言」

嬉しそうに携帯を開く臨也を横目で見て、波江は自分の携帯を開いた。
少し前に名前から来たメールを見る。

【矢霧君も来てました。頑張ってくれてる波江さんにプレゼントです】

一緒に送られてきたのは、隠し撮りした誠二の写真だった。
わずかに頬を赤く染め、写真を見つめる波江。

「うえッ」

夢のような一時は、臨也の声によって壊された。
うんざりといった様子で臨也を睨む。

「なんなの?」

「……いや、なんでもない」

臨也は手元に視線を戻し、顔をしかめた。
ディスプレイいっぱいの魚の頭。濁った目が臨也を見つめ返していた。

――なんなのこの嫌がらせ……。


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