歪んだ愛に溺れて
□変わらないもの
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「貴方……彼女なんていたの?」
キッチンから棘のある言葉が聞こえてきた。
色違いのカップを持った波江が、冷たい視線を送ってくる。
「いちゃ悪いかい?」
「いいえ。でも、物好きな女もいるのね」
いい反応を期待しながら、波江の背中に向けて言葉を放った。
「妹だよ、双子のね」
「……」
波江は足を止め、無言で振り返った。
「……貴方なんて死ねばいいわ」
「ぷっ」
予想外の反応に思わず吹き出す。
まあ確かに、実の弟に異性に対する愛情を抱いている波江からすれば、これ以上の皮肉はない。
「酷いなあ、嫉妬かい?悪いけど、俺達は両想いでね」
「あらそう。で、その彼女とやらはどこにいるのよ」
イタリア、と答えて、チャットルームにログインした。
「ちょっとお使いに行ってもらってるんだよ。もう1ヶ月くらい経つから、波江は知らないだろうね」
そうだ、1ヶ月も名前に会っていない。正直、欲求不満で本当に死にそうだ。
「まあ、そろそろこっちに帰ってくるから、楽しみにしといてよ」
「もしかして、貴方に似てるのかしら?」
「いいや」
キーボードを打つ手を止め、向かい側に座った波江に笑顔を向けた。
「俺が名前に似たんだよ」
波江は眉間に皺を寄せ、呆れたように溜息をついた。それを無視して話を続ける。
「俺は名前に影響を受けてこうなった。名前って言うんだけど……名前が普通の人間なら、俺はこうはなってなかっただろうね」
「それは御愁傷様」
自分の仕事に戻った波江は、少し苛立っているようだった。
優越感を抱きながらチャットに戻ると、充電ホルダーにさしていた携帯が震えた。メールを確認して、すぐに入ったばかりのチャットルームを退室する。
自然と緩む頬も気にせず、立ち上がってコートを羽織った。
「ちょっと、どこに行くつもり?」
「空港だよ。名前、今着いたみたいなんだ」
預かっていた名前の車のキーを持ち、携帯をコートに仕舞った。
「行ってきまーす」
不機嫌な波江に手を振り、マンションを出た。
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