歪んだ愛に溺れて

□白い薔薇を赤に
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夏服になってから数日が経ったある日の昼休み。

「あ、名前ちゃん」

トイレに行って手を洗っていると、背後からいきなり名前を呼ばれた。
振り向くと、立っていたのは見知らぬ女子生徒。本来の色素を失い巻かれた髪が、窓から吹き込む風になびいていた。

「えっと……ごめん、誰だっけ?」

違うクラスの人とはあまり話したことがない為、いまいち解らない。

「いや、違うの。大丈夫、話したのは初めてだから」

化粧で覆われた顔が笑う。

「私、臨也と付き合ってるのよ」

サラリと吐き出されたその言葉に、一瞬殺意が湧いた。が、表情には出さず、適当に返事をする。
すると、その子は手を差し出してきた。

「これからよろしく、名前ちゃん。また相談にのってね」

「……なんで?」

「え……」

こういうタイプの女は見ている分にはおもしろいが、直接関わりたくはない。
そもそも臨也の彼女なんて、ナイフで顔をズタズタにしてやりたいくらいだ。

「悪いけど、そういうのいいから」

「え、ちょ、待ってよ!」

出ていこうとしたら、腕を掴まれた。

「私はただ仲良くしたいと思っただけなの。ほら……将来姉妹になるかもしれないし……」

「……」

この子は頭が救いようがないくらい悪いのだろうか。
呆れて言葉もでない。

「は……はは……」

「どうして、笑うの?」

どうしてと訊かれても、笑うしかないだろう。
手首に巻き付いている手を強く掴み、無理矢理引き剥がした。

「あんたバカなの?臨也が本気であんたのこと好きだとか思ってる?あんたは臨也と結婚できるくらい愛し合ってるとか考えてるらしいけど、臨也は最初っからあんたのことなんて個人として見てないんだよ。そもそも、臨也にはあんたみたいな女まだまだ居るし」

「そんなこと……」

「まあフられて絶望しきったあんたの顔を見るのもおもしろそうだけど、あんまり夢をみるのはおすすめしないなあ」

バイバイと手を振って背中を向けると、後ろからは嗚咽を漏らす声が聞こえた。
馬鹿馬鹿しい。
臨也が個人として見てくれてるのは私だけなのに。

「かわいそうなやつ」

そう口に出すと、優越感で満たされた。


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