歪んだ愛に溺れて

□流れ行く紅
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「臨也君?」

手を止めたことを不審に思ったのか、俺の下にいる女が名前を呼んできた。

「ねえ、臨也君?」

「……やめた」

女の上から退き、床に落ちていた学ランを拾い上げる。

「ちょっと、どういうこと!?」

「俺、教室戻ります。先輩も授業に出た方がいいですよ」

すがる様な声を無視して保健室を出た。

消そうとしても頭に浮かぶ名前の顔。
他の女に触れたら気分が悪くなる。

――あー、苛々する……。

授業中の教室を横目で見ながら自分のクラスに戻ると、誰もいなかった。
どうやら体育らしい。
黒板に『男子:バスケ 女子:サッカー』と書かれている。

名前の机に近寄ると、綺麗に畳まれたセーラー服の横にノートが置かれているのが見えた。
名前の物じゃない。
手にとって開いてみると、名前の字に混じって男の字が並んでいた。
裏表紙を見ると、平和島静雄と書かれていた。

「うわ、最悪……」

更に苛立ちが増す。
ナイフでズタズタに切り裂いてやろうかと一瞬考えたが、名前が怒りそうなのでやめた。その代わりに、投げ捨てるように机に置いた。
誰もいない教室に、バチンッと大きな音が響く。

「あんな化け物、早く死ねばいいのに」

窓際に立つと、サッカーをしている女子が見えた。
そのなかでも一際目立つ名前。
ちょうどゴールを決めたらしく、周囲の女子とハイタッチをしていた。

すると、名前がゆっくりとこっちを見上げてきた。
バチリと目が合い、名前が手を振ってきた。
さっきまで苛々してたのが嘘のように、胸が軽くなっていく。
俺が手を振り返すと、名前は再び輪の中に戻っていった。



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