歪んだ愛に溺れて
□ガラスケースのヒビ
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名前は本当に男との関係をすべて断ち切った。
その代わりに、シズちゃんといる時間が増えたように感じる。
流石の俺も焦り始めた。
シズちゃんだけは駄目だといくら言っても、名前は聞こうとしない。
今だって、二人で校庭の隅にある桜の木の下で楽しそうに話している。
フェンスを握る手に力が入った。
「臨也、手切れても知らないよ?」
「……新羅……」
新羅が屋上に入ってきて、俺の横から校庭を見下ろした。
「わお、随分と仲が良さそうじゃないか」
わざとらしく新羅が口に出す。俺はそれを無視して言葉を返した。
「名前、男みんなと別れたんだ」
「へえ……名前ちゃんがねえ……。これは素直に喜べばいいのかな?」
「喜べるはずないだろ」
フェンスから手を離すと、掌にはいくつもの赤い筋が走っていた。
「相手はシズちゃんなんだよ?前よりも状況は悪くなった」
「……あんまり思い詰めるのは良くない。さっさと言ってしまえばいいのに」
「……それができたら苦労しないよ……」
――そうだ……。
――俺達が兄妹でさえなかったら……今頃……。
馬鹿らしくなってきて、考えを中断した。
今更こんなこと願っても遅すぎる。余計にむなしくなるだけだ。
「教室に戻るよ……」
新羅にそう告げて、視界からシズちゃんと名前を消した。
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