Stab

□forbidden fruit is sweetest
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目が覚めると、そこはいつもの自分の寝室だった。恐る恐る腹部に触れたが、傷一つない。
改めて実感する、この町の力。
私は確かに死んだのだ。

「あ、起きたか」

他人の声がしたかと思えば、暗い表情をしたシフティとリフティが寝室に入ってきた。
私を挟むようにして、二人がベッドの両側に腰掛ける。

「気分はどうだ?」

リフティに頬を撫でられる。

「あんまり良さそうじゃないな。当然だけど」

そっくりな顔で、二人が苦笑した。

「なんたって、死ぬのは初めてだからな」

「俺らも吃驚したぜ。昨日の夜来てみたら、血まみれで死んでんだからよ」

シフティはそこで間を置き、目を鋭く光らせた。

「……誰に殺られた?」

昨日の記憶がフラッシュバックする。
恐怖や怒りよりも、何故、という感情だけが残っていた。

「……ナッティー……」

「ナッティー?」

二人は顔を見合わせ、首を傾げた。

「アイツには何度も巻き込まれて死んだけど、直接殺されたことはねーぞ」

でも、私は確かに殺された。
撃たれた瞬間のことを思い出し、身震いする。
ふとピストルのことを思い出し、枕の下に手を入れた。そこには、昨日私を死に導いたピストルがあった。

「俺達は死ぬことに慣れちまってるけど、初めてはそりゃキツいよな」

死ぬことになれる、なんて普通じゃない。この町が普通じゃないことは、最初から分かっていた。
昨日殺された相手でも今日には一緒に笑っていたり、町中に死体が転がっていても誰も気にしない。
この町の住人は異常だ。
そう思っていた自分でさえ、今では死を見ることに慣れてしまっていた。
死ぬことに慣れてしまったらそれこそ人間として終わりだな、と自嘲気味に笑う。

「ん?どうかしたか?」

「いや、なんでもない」

暗い気分を押し込め、背伸びをした。

「着替えるから、下で待ってて」

「俺はこのままでも別にいいけど?イテッ」

にやけているシフティを小突き、リフティは立ち上がった。

「ほら、いくぞ兄貴」

「へいへい」

よっこらせと言いながらシフティも立ち上がり、二人は部屋を出て行った。



‐†‐



朝食を食べ終えると、シフティとリフティは帰っていった。
隣の家が気になって何度か窓から見てみたが、ナッティーは家にいるのかどうかも分からない。
ソファには私の血の跡は少しも残っておらず、ナッティーが落としていったお菓子が入っていた袋もなくなっていた。
じっとして考えているのも落ち着かず、本棚から読みかけの本を取り出した。読み進めようとするが、内容が頭に入ってこない。
集中しようと文字を追っていると、玄関のドアが開く音がした。
体が強ばる。勝手に入ってくる人間なんて、ナッティーしかいない。

「あ、おはよークルーエル」

予想は当たった。
あっけらかんとした表情で、ナッティーが入ってくる。
まるで、何もなかったかのように。

「……おはよ、ナッティー」

ナッティーは私の隣に腰をおろし、お菓子の入った袋をテーブルに置いた。それは、間違いなく昨日と同じものだった。
ナッティーは袋の中からクッキーの包みを出し、強引に破いた。

「クルーエルも食べる?はい」

まだ何も答えていないのに、口の中にクッキーを押し込まれる。仕方なく、アーモンド味のクッキーを咀嚼した。

「おいしいでしょ?」

「そうだね」

訊くだけ訊いておいて、ナッティーは私の返答に反応しなかった。
ナッティーはクッキーに意識が向いてしまったようで、その後は黙々とお菓子を食べ進めていった。何袋もあったお菓子の包みが、みるみるうちにゴミとなっていく。
それを横目で見ながら、本を読むふりを続けた。本当は、さっき以上に集中できない。警戒心を解くことができず、ナッティーがいつ攻撃してきてもすぐに反応できるように神経を研ぎ澄ます。

「あ、そうだ!」

いきなりナッティーが大きな声を出した。
最後に残っていたチョコレートバーを口に放り込み、私の方を向く。

「すっかり忘れてたよ!今日はただ遊びに来たわけじゃないんだ!僕、話がしたくて来たんだよ!」

そう話すナッティーは、昨日とは違いあくまで普段通りのナッティーだった。
人懐こい笑顔を貼り付けたまま、ナッティーは本題を口にした。

「僕、クルーエルとフリッピーのことについて話をしに来たんだ」

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