Stab
□still waters run deep
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「あれ……」
ある雨の日、買い物に行く途中でフレイキーを見かけた。
道端に座り込んで目の前に赤い傘を立て、ずぶ濡れになりながらじっと傘の下を見つめている。
少し近づいてみると、傘の陰に小さな箱が置かれているのが目に入った。
「フレイキー?」
声をかけると、フレイキーは肩を震わせてゆっくりと私を見上げた。
「クルーエル……」
「何してるの?風邪ひくよ?」
「これ……」
フレイキーが示した箱の中には、白い子猫が一匹入っていた。
くるくるとした金色の目をしていて、甘えるように鳴いている。
「もしかして、捨てられてる?」
「うん……。でも、私、どうしていいのか、分かんない、から……」
猫とフレイキーを交互に見て、小さく溜息をついた。
フレイキーを立たせ、傘を持たせる。
「うち、近いから」
私が箱を持ち上げたところで、フレイキーはようやく理解した。
「でも、いいの……?用事、あったんじゃ……」
「いいよ、ただの買い物だし。べつに今日じゃなくてもいいから」
右手で傘を持ち左手で箱を支え、よし、と呟く。
私が歩き出すと、フレイキーも数歩遅れてついてきた。
-†-
雨で濡れたフレイキーにタオルを渡し、私はバスルームで汚れている子猫を洗った。猫にしては珍しく風呂が好きらしく、気持ち良さそうにしていた。
白い毛並みも綺麗で、何よりも金色の瞳に惹かれた。フリッピーと同じだと考えながら、泡を洗い流す。
バスルームから出ると、タオルを握り締めたフレイキーが待っていた。
「あ、ありがとう……」
「いいよ。何か温かいもの飲もうか。紅茶でいい?」
「うん……」
床に猫を降ろせば、キッチンに向かう私を追いかけてきた。
お湯の隣で、猫用にミルクを温める。
緊張した面持ちでソファに座るフレイキーを見ると、ちょうど目が合った。
「寒くない?」
そう尋ねると、フレイキーはこくりと頷いた。
フレイキーもどこか小動物のようなかわいさがあって、男なら守ってあげたくなる気持ちも分かる。
今更だけど、自分の家にフレイキーが居るということに違和感を感じた。やはりフレイキーを見ていると、一緒にフリッピーのことも思い出してしまう。
足に擦り寄ってくる猫を撫で、自分で飼うことを決心した。
「フレイキー、この子、私が飼ってもいいかな?」
「あ……うん……その子も……喜ぶと、思う……私じゃ、無理だから……」
「ありがとう」
まるで会話を理解したかのように、足元で猫が鳴き声をあげた。
名前を考えながら紅茶を淹れ、ティーカップを持ってキッチンを出る。フレイキーの前に1つ置き、再び引き返して浅い器にホットミルクを入れた。
ホットミルクを自分の足元に置き一人掛けのソファに座った。
「ペット飼うの、初めてなの」
「ご、ごめんなさい……押し付けた、みたいで……」
慌てて謝ったフレイキーに、首を横に振る。
「そんな、謝らないでよ。どうせ一人暮らしだから、相手ができて良かった」
「本当に……?」
「うん」
ここで、ようやくフレイキーが笑顔を見せた。
初めて見たが、花が咲いたようにという言葉がぴったり合うような、綺麗な笑顔だった。
「あの……良かったら、私と……友達になって、くれる……?」
頬を紅く染めながら、フレイキーが恥ずかしそうにそう言った。
友達になろうと言われたのは私も初めてで、こっちまでどう答えればいいか迷う。
「えっと……私でよければ……」
なんだか、告白されている気分だ。
フレイキーが胸の前で手を合わせて、本当に!?と目を輝かせる。
「うん、本当に」
「良かった……!」
心無しか空気が軽くなったようで、フレイキーも嬉しそうにしながら紅茶に口をつけた。
そんなフレイキーを見ながら、友達か、と心の中で唱える。
フレイキーが知らないだけで、私達は結構複雑な関係だ。フリッピーが知ったら、きっと顔をしかめるだろう。
この町にいる限り避けることはできないけど、友達という枠組みに入れば、普段の生活で会う確率が高くなる。
「クルーエル?」
「……ん?何?」
どうやら考え込んでしまっていたようで、心配そうにフレイキーが顔を覗きこんできた。
「やっぱり、迷惑、かな……?私、話すのも、遅いし……」
「違う違う!フレイキーは悪くないから」
泣きそうな表情をするフレイキーを宥め、今は考えるのはよそうと自分に言い聞かせる。
未来のことを今考えてもしょうがない。
カップをテーブルに置き、ミルクを飲んでいる猫の頭を撫でた。
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