Stab
□affection
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睡眠を邪魔されるのは、誰もが嫌がることだろう。
なのに、私は今そういう状況にある。
「兄貴、特に金目のモンねぇんだけど」
「だな。つーか、逆に怪しくねえか?この家」
「あー、言われてみれば……。女の一人暮し、なんだよな?」
似たような声と二人分の足音。
まさかこんなところで泥棒が来るとは思わなかった。
「なあリフティ、提案なんだけどよ」
「なんだァ?」
「あの女……ヤっちゃう?」
「いいなそれ!」
聞こえてますよ、と心の中で呟く。泥棒のくせに声が大きすぎる。
そっと枕の下に手を入れ、護身用のピストルを掴んだ。
ゆっくりと近づいてくる足音に集中し、タイミングを見計らう。
「んじゃ、行くぞ」
「ああ」
「せーの――」
「はい、ストップ」
掛布団を剥がされた瞬間に、右側にいる方のこめかみにピストルを突きつけた。
左手でサイドテーブルの上のランプを点ける。
オレンジ色の光によって見えたのは、私を見下ろす瓜二つの顔だった。私がピストルを突きつけている方は帽子を被っていて、二人とも濃緑色の髪の毛先が外に跳ねている。
よほど驚いたようで、二人とも固まってしまった。
「うちには盗むようなものないでしょ?」
「う、あ、えっと、兄貴……」
帽子を被っていない方が、助けを求めるように帽子を被っている方に視線を送る。兄貴、ということは、帽子の方が双子の兄なのだろう。
だが、生憎そのお兄さんは身動きがとれずにいる。
特に怯えた様子もなく、お兄さんは目を細めて私を見下ろした。
「怪しいと思ったら、こういうことかよ……気に入った」
「は?」
「リフティ、今日のところは引き上げるぞ」
「え!?ちょ、兄貴!」
弟君の声もむなしく、お兄さんは身を翻した。窓を開けたお兄さんを、弟君が慌てて追い掛ける。
意味が分からないまま上体を起こして眺めていると、お兄さんがいきなりウィンクをしてきた。
「君のハートを盗みに、また来るよ」
「兄貴……」
寒い台詞を吐いたお兄さんが、呆れている弟君を無視して窓枠を飛び越えた。
「えー、じゃあ、また……」
申し訳なさそうに苦笑し、弟君も窓の向こうに消えた。
-†-
「っていうことがあったの」
「ああ、シフティとリフティだよ、それ」
少し薄くなったキャンディーを、ナッティーが一口噛んだ。
バリバリと豪快な音がしているが、歯は大丈夫なのだろうか。
「シフティとリフティ?」
「そう。双子の泥棒」
「泥棒……」
顔を知られているのに泥棒をしているなんて、大した兄弟だ。
呆れるというより感心しながら、チョコチップクッキーを1つつまむ。
ナッティーはキャンディーをすべて胃に収め、更に新しいものを出した。
「すごい人に目つけられちゃったね。……でも」
ナッティーがキャンディーを持っていない左腕を、私の右腕に巻きつけてきた。
黄緑色のくるくるとした癖毛が頬に当たる。
「クルーエルはボクのだもん。絶対にあげない」
「はいはい」
自分よりも身長が高い男に甘えられるのは、ナッティーが初めてだ。
宥めるように頭を撫でると、ナッティーは嬉しそうに笑った。
「クルーエルは誰にもあげないよ」
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