Stab
□two sides of the same coin
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帰るなり、お隣さんのナッティーを私の目の前で殺したフリッピーのせいで、今度こそ全身赤いシャワーを浴びることになってしまった。
排水口に流れていく赤い水を見下ろしながら、念入りに髪を洗う。いくら身体中擦っても血の匂いが消えないような気がして、気分が悪くなった。
だが、いつまでもこうしていることはできず、最後に軽く床と壁のタイルを洗ってからバスルームを出た。
着替え終わって洗濯機の中を覗きこむと、軍服が既に入れられていた。普通に洗ってもいいのかと疑問に思ったが、訊くのも面倒なので、私の服と洗剤を上から入れてスイッチを押した。
リビングに戻ると、バスローブ姿のフリッピーが、何故か私の愛用していたライフルをソファに座って弄っていた。
隠していたのに、どうやって見つけたんだろう。
「……どっから見つけてきたの?」
「そこの棚の中の一番下」
「下って、隠し戸になってた筈なんだけど」
ハンディにわざわざ無理を言って作ってもらったのに、こんなに簡単に見つかるとは思っていなかった。
「レミントンM700か」
「使ったことあるの?」
「いや。俺が使ってたのはM16」
そう言ったフリッピーは、私に銃口を向けて構えた。
「お前、何者?」
「弾は入ってないよ」
「知ってる。俺も言ったんだし、お前のことを教えてくれてもいいだろ?」
フリッピーの言っていることは、理に適っている。
銃口を掴み、フリッピーの手からライフルを取り返した。
「ここに来るまでは、傭兵をしてた。半分はハニートラップ式のスパイみたいなものだったけど」
「傭兵か……」
食器棚の一番下を開け、更に床にある戸を上げる。
武器が並んでいるなか、ライフル型に空いている部分に手に持っていた物を仕舞い、元通り上に缶詰やピーナッツバターの瓶を置いた。
「なんで辞めたんだ?」
「雇い主に騙されて、仲間を殺された。だからその雇い主を殺して、この町に逃げてきた」
今ではもう昔のことのようだし、話すことに躊躇はなかった。
キッチンに移動し、冷蔵庫からオレンジジュースを出す。
「何か食べる?さっきはあんまり食べられなかったでしょ?」
ジュースの入ったグラスをフリッピーの前に置いて尋ねると、ああ、と短い返事が返ってきた。
買い物には行ったから材料もあるし、ペチュニアお抱えのシェフには劣るが、大抵の物は作れるだろう。
再び冷蔵庫の中を覗き、何を作ろうかと思案する。
すると、何の前触れも無く、腰に腕が回されて背後から抱き締められた。
「なあ、ハニートラップってどうやるんだ?」
教えてくれよ、と左の耳を甘噛みされる。
こんな状況なのに、電気代が勿体無い、とやけに冷静な考えが浮かんで、冷蔵庫の扉を閉めた。
「フリッピー、彼女いないの?」
「いねぇよ。あんな根性無しにできるわけねぇだろ」
自分の主人格を根性無し呼ばわりするとは。
「じゃあ、好きな人は?」
「あー、確か、赤毛の奴と仲良かったな」
「フレイキー?」
「そう、そいつ」
そう言えば今日のパーティーでも、二人は仲が良さそうだった。良さそうと言うよりは、初々しいカップルに近いかもしれない。
「マズイよね、それって」
「別にいいだろ。今の俺はアイツのことなんてなんとも思ってねぇ。つーか、俺が今気になってんのはお前だっての。なあ?クルーエル」
フリッピーの手が下におりていき、ホットパンツ姿だった私の内腿を撫でた。
「正直言うと、この前のキスが忘れらんねぇ。どうにかしろ」
「……それ、告白?」
「かもな」
その言葉を聞き、体を反転させた。
綺麗な金色の瞳と、視線が絡まる。
そっとフリッピーの首に腕を回し、最後にもう一度確認した。
「本当にいいの?途中で、やっぱりやめたとか言わない?」
「それ、男のセリフ。……言わねぇよ、絶対にな。寧ろ、嫌だっつーくらい鳴かせてやる」
言い終わるなり、今回はフリッピーが強引に唇を重ねてきた。
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