Stab
□inhabitant
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近所回りと荷物の片付けがすべて終わった二日後。
前日に買い物に行った時出会ったギグルスに誘われ、ペチュニアの家で開かれるガーデンパーティーに招待された。
「うわ、でか……」
「ペチュニアは町一番の金持ちなの」
城のような外観のペチュニア家は、入るのを躊躇われた。
庭には白いテーブルとイスが置かれており、パラソルもたてられている。
先に来ていたフレイキーとペチュニアが、皿やグラスの準備をしていた。
「ペチュニアー!」
ギグルスが名前を呼ぶと、ペチュニアとフレイキーが顔を上げた。
「あらいらっしゃい。早かったわね」
「あ、こ、こんにち、は……」
「こんにちは」
フレイキーはまだ私に慣れていないようで、赤いワンピースの胸元を握り締めてペチュニアの背中に隠れた。
あらら、とギグルスが苦笑し、私に視線を向ける。
「よし、私達も何か手伝おうか」
「そうだね」
「じゃあ、二人はフォークとスプーンを並べて」
ペチュニアから指示を受け、食器の入ったカゴから高そうな銀のフォークを取り出す。
強度も良さそうだし、これだけでも充分に武器になりそうだ。
――って、何考えてんだろ、私……。
もう武器など必要ないのに、余計なことを考えてしまった。
変な考えを振り払い、作業に戻る。
「男組はまだかしらねぇ」
料理を出し終えたペチュニアが、門の方を見ながらそう呟いた。
ギグルスも一旦手を止めて、同じ方向に目をやる。
「たぶん、もうすぐ来るでしょ」
「そうかしら……あら、本当だわ」
「カドルスー!」
初めて聞く名前だ。
門の方を見てみると、黄色いオーバーオールを来ている金髪の男の子が走ってきていた。
その後ろから歩いてくる人物に、体が止まった。
見間違える筈がない軍服。
あれはフリッピーだ。
「みんなー!お待たせー!」
「カドルス遅い」
「え!?まだ集合時間になってないのに!」
仲良さそうに話すギグルスとカドルスの声に違和感を抱く。
数日前に自分を殺した相手がすぐそこにいるのに、みんな平然としている。いくら生き返るからと言っても、恐怖は少なからずある筈なのに。
「ごめん、ペチュニア。僕の仕度が遅れたんだ」
以前とは違い、穏やかな笑みを浮かべるフリッピー。口調も違うし、一人称も変わっている。
訳が分からず止まっていると、フリッピーと目が合った。
「あ、新しく引っ越してきた方ですよね?」
「え……はい」
驚きのあまり、つい敬語で返してしまった。
「初めまして。フリッピーです」
「はじめまして……」
やっぱり、彼はフリッピーだ。
頭の中が整理できずにいると、ペチュニアに肩を叩かれた。
「クルーエル?どうかした?」
「いや、あの……この町には、フリッピーっていう人、二人いるの?」
「え?フリッピーは一人よ?」
「でも、私引っ越してきた日に会ったの。フリッピーに」
直後、その場の空気が凍った。
会話も笑い声も途切れ、気持ち悪いほど静かになる。
「クルーエル……フリッピーに、会ったの?」
「うん……」
尋ねてきたギグルスの声は、いつもより低かった。
「間違いない?本当に僕だった?」
怯えたような目で、フリッピーが私を見る。
「間違いないよ……。ちゃんとフリッピーだって言ってたし、服装も同じだったし……」
「それで……何もされなかったの?殺されたり、とか……」
「ただ普通に会話しただけ」
銃を持っていることを知られたくなかったから、刺されそうになったことは言わなかった。
怪しいものでも見るかのような視線に突き刺されて、訊かなければよかったと、今更だが後悔する。
「みんな、そんな暗い顔しないの。料理が冷めちゃうわよ」
ペチュニアがみんなの注意を引き付けてくれて、ようやく解放された。
「そうだよ!あたしお腹すいちゃった!」
ギグルスの言葉で、順番に席についていく。
私もギグルスの隣に座った。
胸に疑問を残したまま……。
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