黒き影とともに

□将軍と策士
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‐3年前‐

薄暗い路地裏で、若い男女が睨みあっていた。
青いバンダナを頭に巻いている男四人に、まだ中学生ほどの少女が一人。
自分よりはるかに大きい男を前にしても、少女は怯えていない。

「おいお嬢ちゃん、こんな時間に一人は危ないって、親に言われなかったのかー?」

「……」

「お兄さん達ちょっとお金がなくてさー。悪いんだけど恵んでくれないかなー?」

「……」

「おい、なんか言えよ!」

無言で立っている少女に、男の一人が近寄った。
少女に顔を近付けて、ニヤニヤと笑う。

「こいつかなりの上玉だぜ」

「一人占めすんじゃねーぞ」

「わかってるよ」

一度仲間を振り返り、下卑た笑い声をあげる。
もう一度少女に顔を近付けようとした瞬間、鈍い音がして男が後ろに吹っ飛んだ。

「ふがっ!?は、は、はあが!」

血が吹き出している鼻を押さえ、地面を転げ回る男。
驚いて固まっていた男達が、ゆっくりと少女に視線を移す。
少女は虫でも見るような目で、男達を見ていた。

「ちょうどイライラしてるんだよね。相手してよ」

「なッ!……舐めんじゃねぇぞゴラァッ!」

一斉に少女に飛びかかる。
男のパンチをかわし、伸びてきた腕を掴んで捻りあげ、背後からきた男に回し蹴りをする。掴んでいた腕を放し、背中を蹴る。

「ぐあッ」

男は壁に頭をぶつけて、そのまま倒れた。

「くそぉぉぉおッ!」

勢いよく殴りかかってきた最後の一人を避け、よろめいたところを脇腹めがけて回し蹴りした。
ほんの数十秒の出来事。
うめきながら悶えている四人の男を見下ろし、少女は呟いた。

「弱い」

そのままその場を去ろうと振り向いた少女の目に、少年の姿が映った。
少女と同い年くらいの茶髪の少年は、少女を見て満面の笑みを浮かべた。

「ちょっとそこのオネーサン!綺麗な君に返り血なんて似合わないよ!よかったら、俺と恋の駆け引きでもしてみないかい?」

少女は目を細め、吐き捨てるように言った。

「死ねッ」

これが、少女と少年――岸谷名前と紀田正臣の出会いだった。

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