黒き影とともに
□罪歌2
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実のところ、名前は臨也と暮らしていることを、静雄に言っていなかった。激怒することが目に見えているからだ。
名前は、すたすたと前を歩く静雄に、どうやって説明しようか悩んでいた。
今の静雄なら、視線で人を殺しかねない。
「あのー……静雄?」
「ん?なんだ、お前ついてきてたのか」
どうやら、怒りのせいで名前に気づかなかったらしい。
「お前はもう帰れ」
「いや、帰るって言っても……」
言うなら今しかない、と名前はバーデン服の袖を握った。
「なんだ?」
名前の様子が気になって、静雄は足を止めた。
「あのね……」
「どうしたんだよ?」
名前は深呼吸をして、静雄を見上げた。
「落ち着いて聞いてほしいんだけど」
「おお」
「私……折原臨也と一緒に暮らしてるの……」
「は……?」
名前の予想とは逆に、静雄は固まってしまった。
「し、静雄?」
「それ……本当か……?」
絞り出すような声で訊いてきた静雄に、名前はゆっくりと頷いた。
静雄の顔を見ることができず、うつむいたままの名前の頭に、静雄の手がのせられた。
驚いて見上げると、静雄は微笑んでいた。静雄とは長い付き合いだが、こんな笑顔の静雄は見たことがない。
「静雄?」
「言いにくかったんだろ?」
優しい声に、思わず頷く名前。
「そうか……。大丈夫、お前を殴ったりしねえよ」
「静雄……。今まで黙っててごめんね」
「謝るなって。まあ、そうだよな。そりゃ、言いにくいよな」
静雄の言葉に、名前が胸を撫で下ろす。
しかし、安心していた名前に、静雄は笑顔で言った。
「安心しろ。今すぐあいつを殺して自由にしてやるからな」
「……は?」
再び歩きだした静雄を見て固まる名前。
――え?嘘?
――まさか……意味取り違えてる?
静雄は、臨也が無理矢理名前を捕らえていると勘違いしたらしい。
「もうやだ……」
名前は泣きそうな声で呟いた。
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