黒き影とともに

□罪歌2
1ページ/7ページ


実のところ、名前は臨也と暮らしていることを、静雄に言っていなかった。激怒することが目に見えているからだ。
名前は、すたすたと前を歩く静雄に、どうやって説明しようか悩んでいた。
今の静雄なら、視線で人を殺しかねない。

「あのー……静雄?」

「ん?なんだ、お前ついてきてたのか」

どうやら、怒りのせいで名前に気づかなかったらしい。

「お前はもう帰れ」

「いや、帰るって言っても……」

言うなら今しかない、と名前はバーデン服の袖を握った。

「なんだ?」

名前の様子が気になって、静雄は足を止めた。

「あのね……」

「どうしたんだよ?」

名前は深呼吸をして、静雄を見上げた。

「落ち着いて聞いてほしいんだけど」

「おお」

「私……折原臨也と一緒に暮らしてるの……」

「は……?」

名前の予想とは逆に、静雄は固まってしまった。

「し、静雄?」

「それ……本当か……?」

絞り出すような声で訊いてきた静雄に、名前はゆっくりと頷いた。
静雄の顔を見ることができず、うつむいたままの名前の頭に、静雄の手がのせられた。
驚いて見上げると、静雄は微笑んでいた。静雄とは長い付き合いだが、こんな笑顔の静雄は見たことがない。

「静雄?」

「言いにくかったんだろ?」

優しい声に、思わず頷く名前。

「そうか……。大丈夫、お前を殴ったりしねえよ」

「静雄……。今まで黙っててごめんね」

「謝るなって。まあ、そうだよな。そりゃ、言いにくいよな」

静雄の言葉に、名前が胸を撫で下ろす。
しかし、安心していた名前に、静雄は笑顔で言った。

「安心しろ。今すぐあいつを殺して自由にしてやるからな」

「……は?」


再び歩きだした静雄を見て固まる名前。

――え?嘘?

――まさか……意味取り違えてる?

静雄は、臨也が無理矢理名前を捕らえていると勘違いしたらしい。

「もうやだ……」

名前は泣きそうな声で呟いた。

,
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ