黒き影とともに
□罪歌1
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「名前、かーえろッ!」
名前が教科書類を鞄に積めていると、一足先に帰り支度を終えた正臣が、いつものハイテンションで近付いてきた。
「帝人と杏里は?」
「来光祭の準備があるから遅くなるってさ。久々に二人っきりで帰れるぜ!ラブラブランデブーといこうじゃないか!」
「はいはい」
正臣の意味不明な言葉を受け流し、名前は立ち上がった。
「名前、どっか行きたいとこある?」
通りを歩きながら、正臣が名前に尋ねた。
「んー、特にないかな」
「そんなこと言わずにさあ。名前、最近ずっと帰るの早いだろ?だから、今日は二人でどっか行こうぜ!」
正臣がそう提案すると、名前の歩くスピードが落ちた。
「確かに……。じゃあ……久しぶりにゲーセン行きたい!」
「おっ、いいぜ!早速しゅっぱーつッ!」
「……の前に」
名前より数歩先を歩いていた正臣が振り返ると、携帯を持って苦笑する名前の姿があった。
「どうかしたか?」
「臨也に連絡しとく。後々五月蝿いから」
臨也の名前が出た途端、正臣の表情が曇った。しかしそれは一瞬で、すぐに笑顔に戻った。
「そかそか。ここで待ってるよ」
「うん。すぐに終わるから」
名前は正臣から少し離れて、電話帳を開いて“臨也”の名前を押した。
『もしもし?』
すぐに臨也が出る。
「もしもし、私だけど」
『どうかした?』
「今から正臣と放課後デートしてくる。夕飯は適当に食べて」
『えー、寂しいんだけど』
わざとらしく拗ねたような声を出す臨也に、名前が眉間に皺を寄せる。
「キモい。じゃあそれだけだから」
『あっ、待って!』
切ろうとしていたが、呼び止められてもう一度携帯を耳にあてた。
「何?」
『さっきセルティが来たよ』
「え!?」
『罪歌の情報売った』
「罪歌の?」
『そう。おもしろくなりそうだね』
「あっそ。じゃあね」
『え、反応薄すぎな――』
名前は強引に電話を切った。
セルティが罪歌の情報を欲しがるのも無理はない。チャットで何度もその名を目にしているのだから。
しかも、書き込みがあるのは、決まって通り魔事件があった日。
つながりがあると考えるのは普通だろう。
名前はそう解釈して、正臣のもとへと走った。
♂♀
「デートねぇ」
会話の途中で通話を遮断された臨也は、携帯の液晶画面を睨んだ。
「名前は、俺にヤキモチでも焼かせたいのかなぁ?」
初めて生まれた感情に、臨也は自嘲気味に笑う。
椅子を半回転させて、窓に映った己の顔をみて呟いた。
「えらく人間くさい顔をしてるじゃないか」
携帯を握る手に力がこもる。
臨也の中では、既に初めて生まれた感情が渦巻いていた。
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