黒き影とともに
□斬り裂き魔
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――張間美香ねぇ……。
新宿にあるマンションへ向かいながら、名前は今日出会った少女のことを思い出していた。
昨日ダラーズの初集会から臨也と名前が帰ったあといろいろあったらしく、今朝学校に行くと、矢霧誠二とセルティの顔をした張間美香が、イチャイチャしながら登校していたのだ。
それに、セルティと新羅も無事結ばれ、セルティの首への執着心もましになったとか。
――愛、ね……。
人を愛することを極端に恐れる名前にとっては、なんとも羨ましいことだ。
「はあ……」
溜息をつきながら、オートロックの扉を開ける。
「ただいまー」
「あ、おかえりー」
名前の視線の先、仕事場兼リビングには、臨也の他にも人間がいた。
「矢霧波江……」
臨也のデスクの前には、昨夜逃げたはずの波江がいた。
そしてイスに座る臨也の手には、女の“首”が持たれていた。
「ちょっと、首がなんでここにあるのよ!?」
「波江さんに渡してもらったんだよ。ついでに、この人今日からうちで働くから」
「はあっ!?」
波江は臨也と名前を交互に見て、無表情のまま口を開いた。
「なにこの娘?妹?」
「やだなあ、俺のパートナーだよ。あと、未来の彼女」
「違います。ただの仕事仲間です」
「ああ、そう。そういうことね」
波江は納得して、床に置いていたバッグをとった。
「じゃあ今日のところは帰るわ」
「明日からよろしくー」
臨也はデュラハンの髪に指を絡ませながら、片方の手をヒラヒラ振った。
呆然としている名前の横を通りすぎ、波江は部屋を出ていった。
扉が閉まるのを待って、名前は臨也の前にずかずかと歩み寄った。
「どういうこと!?なんであの人なの!?ていうか、それで遊ばないでよ!」
臨也の手から、首を奪う。
臨也は飄々とした態度で言った。
「いいじゃないかべつに。首が手に入ったんだからさ」
「でもあの人は!」
「解ってるよ。でもね、波江さんはいろいろと使えそうだからね」
「使うってなによ?」
反抗的な名前を見て、臨也は腕を組み厳しい顔になった。
「名前、この事務所の責任者は俺だよ?俺が決めたことに口出ししないこと」
名前は言い返せなかった。
相手は自分より立場が上であるという事実を突きつけられ、反論ができない。
暫く睨み合った後、解りましたよ、と臨也に首を返した。
臨也は、すぐにいつもの笑顔に戻った。
「解ったんならよし」
そして、首を専用のケースに戻した。
「そうだ!名前はチャットに興味ない?」
キッチンに紅茶をいれに行こうとしていた名前を呼び止める。
「チャット?中学のときにやってましたけど」
「じゃあさ、俺が管理してるチャットルームに参加しなよ。君の知り合いもいるよ?」
断ろうとしていた名前だが、最後の言葉を聞いて考えを変えた。
「知り合い?」
「ああ。竜ヶ峰帝人くんに、あとセルティも」
――帝人とセルティが?
「じゃあ……やってみようかな……」
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