黒き影とともに
□終わりの始まり
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臨也のマンションに引っ越した翌日。
HRが終わった途端、ナンパに行こうと言い出した正臣を帝人に任せ、早々と家路についた。
――はやく帰って仕事しないと……。
臨也と二人なのは憂鬱だが、仕事は手を抜けない。
さっさと済ませようと心に誓い、新宿へと向かった。
しかし、いざ覚悟を決めて帰ってきたものの、臨也は居なかった。
「また変なことやってたりして……」
名前は制服から黒いルームウェアに着替え、パソコンの前に座って仕事を開始した。
臨也と帝人が接触しているとも知らずに。
「ただいまー」
爽やかな声がマンションの一室に響いた。
名前がキーボードを打つ手を止め顔を上げると、声とは裏腹に疲れきった臨也の姿があった。
「何かあったんですか?」
「いやー、シズちゃんに会っちゃってさ」
「池袋に行ったんですか!?」
「ああ。君の友達に会いにね。・……竜ヶ峰帝人くんに」
「え!?」
名前が臨也を睨んだ。
「帝人に何したんですか?」
「やだなあ、何もしてないよ。イジメを止めようとしていたから、ちょっと手伝っただけさ」
「イジメ?」
「そう。一人の女の子が、三人の女の子に囲まれててね。携帯を踏み潰してやったよ」
「はあ……」
――帝人もお人好しだなあ……。
名前は臨也が女の子の携帯電話を踏み潰したことについては触れず、再びパソコンへと視線を戻した。
その直後、マナーモードにしていた名前の仕事用の携帯電話が、デスクの上で震えた。ほぼ同時に、コートの中の臨也の携帯電話も鳴り始めた。
二人は顔を見合せ、携帯電話を手にとった。
メールを確認した臨也が、楽しそうに笑った。
「おもしろいことになってきた」
「どういうこと?どうして“首”が……」
二人のもとに、同じ情報が舞い込んできた。
首に傷のある少女、黒バイク、平和島静雄、矢霧誠二。この四人が池袋で騒ぎを起こしたらしい。
「これはすごい。デュラハンの首が別の体にくっついて走っているなんてね」
「矢霧製薬ですか……」
「みたいだね」
ひっきりなしに来るメールに、順番に目を通していく。
そのうちの一つを読んでいるところで、名前の手が止まった。
「来良の生徒?」
「黒バイクから逃げるなんてすごいじゃないか。地下に逃げ込むのはいい考えだね。流石にバイクでは入れない」
来良学園の男子生徒が、首に傷のある少女をつれて逃げたという内容だった。
似たような内容のメールが、あと何通かある。
「さて、どうなるかな」
臨也はそう呟くと、名前の背後に移動し、パソコンを覗きこんだ。
「調子はどうだい?」
「あと少しですよ」
名前は携帯電話を置き、作業を再開した。表情には焦りの色が出ている。
――遅かったか?
既に首が矢霧製薬に利用されているのではないかという不安が、名前を急がせる。
そんな名前を見て、臨也は言った。
「逃げている女の子、首がセルティのものだとしたら……首から下は誰のものなんだろうね?」
「……人攫い?」
臨也は無言で頷いた。
「矢霧製薬は、不法入国者や家出した子しか狙わない。警察にもバレないし、暴力団が絡んできたら困るからね」
「つまり、身元も解らない女の子を攫ってきて、首をくっつけたということですか?」
「おそらくは。でもそうなると、一度はその子を殺したということになるね」
「……それって」
しかし、臨也は名前の言葉を遮り、いきなり話題を変えた。
「それよりさ、竜ヶ峰帝人くんと、仲いいんだよね?」
「それがどうかしましたか?」
名前が警戒した目で臨也を見る。
「あの子、いろいろありそうだね。そう言えば、どうしてそんなに名前帝人くんと仲いいの?会ってそんなにたってないでしょ?」
「それは……」
名前には秘密があった。
中学のときにネットで出会った少年。そして、一緒に作ったあるグループ。
その少年こそが、竜ヶ峰帝人だった。
「言いたくないならいいけど」
「どうせ、あなたのことだから本当は知ってるんでしょ?」
臨也は笑った。
「だいたいはね。でも全てじゃないよ。あともう少しってとこかな」
「……」
「そんなことより、今後は帝人くんのこと注意して見といてね」
「……解りましたよ」
名前は臨也の次のターゲットが帝人だと悟り、話にのった。
絶対に阻止してやると、心に誓って。
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