黒き影とともに

□逃走
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少女は夢の中に居た。
しかし、眠りを妨げようとする影が一つ。
体全体にかかる重みで、少女は現実へと舞い戻る。

「あ、起きた」

名前がゆっくりと目を開けると、朝に似合う爽やかな声が鼓膜を刺激した。
名前の視界いっぱいに映るのは、眉目秀麗という言葉を具現化したような顔。

「折原臨也!?」

「おはよう、名前ちゃん」

名前は慌てて臨也の肩を押し返した。

「どいてください!」

臨也は呑気に笑い、枕元にある目覚まし時計を名前に見せた。
針は10時20分を指している。

「な……ッ!?」

「俺が止めておいてあげたよ。疲れてるんでしょ?もうちょっと寝てれば?」

「なに言ってるんですか!」

名前は急いで上体を起こした。が、臨也ががっしりと腰に腕を回していて、ベッドからおりられない。

「離してください」

「じゃあ俺と仕事して」

「一人でできます」

「俺と一緒ならもっとできる」

「今のままで充分です」

「もっといろんな情報が集ま−−」

臨也の言葉の途中で、枕元にあるプライベート用の携帯が鳴った。臨也が反応する前に、さっと掴んで電話に出る。

「もしもし!」

『もしもーし!名前の王子様正臣くんだよ!』

「正臣?」

臨也は正臣の名前を聞き、名前に抱きついたまま上体を起こす。名前に後ろから抱きつき、二人の会話を聞こうと耳を近付けた。
名前は正臣に気づかれないように、平静を保ちながら臨也から離れようともがく。

『どーしたの?名前が来ないから学校つまんねえ。風邪か?』

「いや、そうじゃなくて……。寝坊した」

『名前が寝坊?珍しいなぁ。とにかく、早く来いよ』

「ありがと。ダッシュで行くから」

『了かーい!』

電話を切ると、臨也の頭が名前の肩に乗せられた。

「どうやって部屋に入ったんですか?」

「暗証番号調べた。素敵で無敵な情報屋さんだからね」

臨也の冗談に呆れたように溜息をつき、名前は臨也の腕を引き剥がそうと上から掴んだ。

「……学校行きます」

「えー、サボればいいじゃん。紀田正臣くんがそんなに好き?」

名前よ手から力が抜けた。

「……私は、あなたが正臣と沙樹ちゃんにしたことを許しません」

「はははっ、怖い怖い。で、君はその沙樹ちゃんから紀田くんを奪うの?」

「正臣は親友です。そういう感情は持ち合わせていません」

「まぁそうだろうねぇ。だって……」

臨也は名前の耳元で囁いた。

「君は人を愛してしまうことが怖いんだろう?」

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