黒き影とともに

□斬り裂き魔
4ページ/6ページ


「「サイカ?」」

臨也と波江の声が、再び重なる。

「そう。罪の歌って書いて、サイカって読むの」

「なにそれ?波江さん知ってる?」

「私が知るわけないでしょう」

波江はそう答えて、ファイルの整理を再開した。だが耳は名前の話に傾けられている。
名前はマウスを動かしながら、二人に罪歌について話した。

「罪歌っていうのはねぇ、昔、新宿に本当にあった妖刀なんだって。しかもかなりイカれた妖刀」

「イカれた?」

臨也は眉間に皺を寄せた。

「そ。イカれてる。罪歌はね、人間を愛してるの」

「はぁ!?」

「だから、人間を愛してるの。しかも個人じゃなくて、全人類を。どっかの誰かさんみたいでしょ?」

「それって俺のことなのかなあ?」

臨也が苦笑するのを見て、名前は笑みを浮かべた。

「恋のライバル登場ね」

「恋って言われてもなぁ……」

臨也はデスクに肘をついて、言い聞かせるように名前に語った。

「俺が人間に対して抱いてるのは、恋心じゃないよ?恋ではなく、愛なんだ。愛しているけど恋とは全くの別物さ。愛にもいろんな種類があるだろう?家族愛に友愛、好きな物に対する愛着やペットへの愛。俺の愛はそれらの愛とはちが――」

「もういいから!」

まだまだ臨也の話は続くと確信した名前は、早々に止めた。
臨也はつまらなそうな表情で名前を見る。

「まだ結論までいってないよ?」

「いや、聞きたくないし。長々と語られても困るし」

「つれないなぁ。で、罪歌が通り魔事件の犯人だって?」

「うん」

名前は文献を見ながら説明した。

「罪歌は人間を愛しすぎて、一つになりたいと思った。そして出た結論が、人間を斬ること。斬っている瞬間は一つになれるからね」

「なんだそれ。斬るだけでいいの?」

「それだけならまだいいんだけどね、罪歌は……子供を産むのよ」

「子供?」

「そう、子供。罪歌に斬られた人間は、罪歌の娘になるんだって。子供としての意識が生まれて、罪歌のいうことならなんでも聞く。つまり……罪歌は増えるの」

――増える……。

臨也の目がギラリと光った。

「ということは、これからも増え続けるのか」

「確実にね」

臨也の唇が弧を描く。

「面白いことになりそうだね……」

「え?」

臨也は大きく腕を広げて、背後にある大きな窓の外を見下ろした。

「これで、池袋の街は三つにわかれるってわけだ!楽しみだなぁ楽しみだなぁ!」

「わかれるって……」

「ダラーズと黄巾賊と、その妖刀軍団にさ!近いうちに抗争が起こるかもしれないよ?名前も、注意してダラーズを見張っておいた方がいい」

名前の脳裏に、友人の姿が浮かんだ。
臨也の言ったことが本当ならば、紀田正臣と竜ヶ峰帝人はどうなる?
臨也は名前の心中を見抜いて、わざとらしく尋ねた。

「もしそうなったら、名前はどうする?」

「え?」

「だって君は、“ダラーズの創始者の一人”であり、“紀田正臣くんの親友”でもある。もし抗争が起こったら、君はどうする?どっちの味方になるの?」

「それは……」

すべての中心に立つ少女は、言葉につまった。
臨也にとって、名前という存在はゲームをする上で最も重要な駒だ。名前がどちらに味方するかによって、ゲームが大きく左右される。

「決められない?」

「……今はね……」

名前はそう答えて、見ていたページを閉じた。

,
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ