黒き影とともに

□愛欲恋慕
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結局、臨也の誕生日ケーキができあがったのは、4時半を過ぎた頃だった。
完成したケーキを皿に乗せて、満足感と達成感に浸る。
ケーキを冷蔵庫に仕舞いエプロンを外して背伸びをすると、今までの集中力が切れて疲れが押し寄せてきた。

「眠いー……」

フラフラとキッチンを出ると、食卓でダラダラと宿題をしていた臨也が顔が上げた。

「できたの?」

「うん……」

ソファの前に座り、ガラス製のテーブルに顔を伏せる。

「ねえねえ、見ていい?」

「だめ。夜まで待ってて」

ガタリとイスが引かれる音と衣擦れの音、そして隣から感じる体温。
顔を横に向けると、臨也の指が髪の間を滑った。

「おつかれさま」

「うん……」

「寝ていいよ。まだご飯まで時間あるし」

「そうする……」

掛けるもの取ってくると言って立ち上がった臨也の背中を見送り、腕を枕にして目を閉じた。
すぐに心地よい微睡みの波が押し寄せてきた。

――あ、後で蝋燭たてなきゃ……。

キッチンに置いてきた蝋燭のことを思い出したのを最後に、私は意識を手放した。



♂♀




――寒くないかな……。

二階から見つけてきたブランケットを持って、臨也がリビングのドアを開ける。

「……あれ……?」

そこには、誰も居なかった。
さっきまでテーブルに伏せて寝ていた名前の姿がどこにもない。
キッチンも覗いたが、やはり居なかった。

「名前……?」

胸騒ぎがするのを感じながら、ブランケットをソファにかける。
リビングと隣接している洗面所にも、トイレにも、客間である和室にも名前の姿は無い。

――まさか……。

臨也は最後の砦である二階へと、階段を一段飛ばしで上がった。
一応二階のトイレも他の部屋も確認する。
頭の片隅では解ってはいたが、臨也はすがる思いで自分の部屋のドアを開けた。

「名前!」

しかしそこには誰も居らず、受け入れがたい現実だけが残っていた。

名前の私物が消えているのだ。

正確には、最初から名前が持っていた物だけが消えている。臨也が買った服やウサギのぬいぐるみは、そのままの状態であった。

「……なんで、いきなり……」

ガチャリとドアを閉める音が、一人だけの家の中に空しく響いた。
行きとは反対にノロノロと階段を降り、リビングに戻る。

名前は元の時代に戻った。
臨也の中に、忘れがたい思い出と喪失感を残して。

臨也は冷蔵庫を開け、作りたてのケーキを取り出した。
プロ顔負けの仕上がりに苦笑し、臨也は指でクリーム掬った。それを口に運び、表情を綻ばせる。

「うま……」


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