歪んだ愛に溺れて

□心は泣いていた
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「で、貴方の妹は何者なの?」

休憩に入った波江が、コーヒー片手に尋ねてきた。
キーボードを打つ手を止め、背伸びをする。

「何って、情報屋さ。実を言うと、新宿の情報屋である折原臨也は俺と名前両方のことを指すんだよ。俺が名前を売り、名前はその裏で情報を集め交渉をする。最も効率的で合理的だろう?名前はとにかく女優以上に演技が上手い。口も上手いしね。マフィアだろうとヤクザだろうと政治家だろうと、どんな奴でも手駒にしちゃうんだよ」

「成程ね。でも、それなら同居すればいいじゃない」

「そうなんだけど……」

忌々しい妹達とシズちゃんの顔が浮かんだ。
考えただけでも苛立ちがつのる。

「名前を手放そうとしない邪魔者が三匹いるんだよ」

イスから立ち上がり、俺もコーヒーを淹れるべくキッチンへと向かった。

「だから俺は君の気持ちが解るよ」

そう言うと、波江は無言で溜息をついた。

「貴方は贅沢よ」

「人間なんてそんなものさ。どこまでも貪欲で、救いようのないくらいに憐れだ」

思い返せば、名前の隣に居られればいいという謙虚な頃もあった。
今ではもう戻れないと自嘲気味に笑い、カップにコーヒーを注ぐ。

「波江はさ、弟くんと姉弟じゃなければよかったのにって思ったことある?」

「ないわ」

試しに訊いてみたら、清々しいほどの即答だった。

「姉弟じゃなければ、出会えていなかったかもしれないじゃない」

「……それもそうだね」

イスに座り直し、両手の人差し指に嵌めている指環に触れた。指環の裏には、俺と名前の名前が彫られている。
同じ物を嵌めている名前は今頃どこで何をしているのだろうと考えながら、仕事を再開した。

「一途だね、君も」

向かい側にすわった波江は一瞬だけこっちを見て、すぐに手元の書類に視線を落とした。

「他人のこと言えないでしょ」

「ああ、俺は一途だよ。だからこうして待ち続けているんだ……」



名前がここに来てくれるのを……



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