歪んだ愛に溺れて

□ガラスケースのヒビ
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――……は?


「ずっと好きだった……でも、俺こんな力だし……名前を傷つけちまわないか心配で……」

「……そんなことないよ。静雄君は優しいよ。私も……静雄君のこと、好き」


――嘘だろ……。

頭がパニック状態になって、後のことなんか考えず逃げるようにその場を去った。

――なんで……。

――名前は人間が好きなのに……。

非常階段の踊り場で足を止め壁に凭れた。

――名前が……シズちゃんを選ぶなんて……。

――どうして……どうして……俺は……俺達は……兄妹なんだよ……。

言い様のない怒りと悔しさが込み上げてくる。

俺の方がシズちゃんより名前のことを知っている。
俺の方が名前を好きになるのは早かった。
俺の方が名前の近くに居る。

俺の方が……名前のことを愛してる……。

「くそッ……!」

右手を握り締め、そのまま拳を壁に叩きつけた。
鈍い痛みが走る。
でも、今はそんなこと気にならなかった。



俺の中で、何かが音をたてて崩れた。



♂♀




――あーあ、行っちゃった。

静雄君の向こう、教室の後ろのドアに映っていた黒い影が走り去ったのが見えた。

「ねえ静雄君」

「なんだ?」

ドアから静雄君へと視線を移す。
うっすらと頬が赤くなっていてかわいい。

「静雄君は私を見ててイラッとしないの?」

「は?」

「だってほら、私臨也に似てるし」

自分の顔を指差して問いかける。
静雄君は少し考えた後、首を振った。

「アイツとお前は違うから」

「でも、私は静雄君が思っているような女じゃないかもしれないよ?」

静雄君は優しく笑って、くしゃくしゃと私の頭を撫でた。

「お前がどんな女でも、俺は受け入れる」

その瞬間確信した。

静雄君は……綺麗すぎる。純粋で真っ白で、私とは生きてる世界が違う。

――私はこんなにも……穢れてるのにね……。

「ありがとう静雄君」

「お、おう……」

ほら、ちょっと微笑みかけただけで照れる。
利用されてるだけなのに。

――やっぱり私には臨也だけだ……。



私に白は似合わない。



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