歪んだ愛に溺れて
□パステルカラーの愛憎劇
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部屋に入って、そのまま崩れ落ちるように座り込む。
まだ、名前を抱き締めた感触が腕に残っていた。
――……俺……さっき、名前を……。
――何やってんだろ……。
名前の髪から香った男の香水の匂いを思い出すと、無性に苛立つ。
「名前……」
小さく呟いてみても、当然返事なんて返ってくるはずもない。
――名前……。
こんなに近くにいるのに、何故かとても遠くに感じた。
♂♀
急に息苦しくなった。
胸の辺りが圧迫されているようだ。
うっすらと目を開けると、自分と同じ赤い瞳が見つめ返してきた。
「!?」
「おはよ、臨也」
バクバクと心臓が早鐘を打つ。
「……おはよ……」
なんとかそう答えて、顔に落ちてきた名前の黒髪を払った。
「また遅くまで仕事してたんでしょ?程々にしないと体壊すよ?」
「大丈夫だよ……」
「そうやって最後にはツケが来るんだから。あんまり無理しないでよね」
「……うん」
頷くと、名前は俺の頭を撫でてベッドから降りた。
「はやく着替えてご飯食べて」
「はーい」
パタンとドアが閉まってからも、金縛りにあったかのように動けなかった。
未だに治まる気配のない心臓を押さえるようにしてシャツを掴む。
――……近すぎだって……。
――……心臓に悪い。
まあ、昨日は仕事をしていたわけではなかったのだが……。
あの後、ずっと名前の事を考えていてなかなか眠れなかったのだ。
低血圧の俺とは違い、朝に強い名前が羨ましい。
重い体を起こし、欠伸を一つ溢した。
サボって昼寝でもしようと決め、制服に手を延ばした。
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