歪んだ愛に溺れて
□first contact
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「君は変わってないね」
屋上から臨也と平和島君の喧嘩を見ていると、前触れもなく背後から声をかけられた。
誰だかは声で解る。
「やあ新羅。いきなり何?」
新羅は私の横に来て、同じようにフェンスを握った。
「僕の次は静雄?」
「なんのこと?」
「とぼけないでよ」
新羅は体を反転させて、フェンスに凭れかかった。
「本当に世の中って残酷だよね。歪んだ愛を持った双子が本気で愛したのは、お互いだったなんてさ」
「……」
「いや、“同じ”だからかな?同類の人間だからお互い惹かれたのかもね」
視線を横に移動させると、新羅はいつも通り微笑んでいた。
「今日の臨也は珍しく荒れてるね。君の計画は成功だったってわけだ」
「……そうだね」
「あ、否定はしないんだ?」
しない、と答えて、私もフェンスに凭れた。
見上げると、初夏の澄んだ青空が広がっていた。
ああ、臨也みたいだ。
「自分がひねくれてるってことぐらい、自分が一番解ってるよ。だけどそれでもいい。臨也が私のことを愛してくれるなら、それでいい」
「なら、さっさと告白しちゃえばいいじゃないか」
「それじゃあ駄目なんだよ。簡単に付き合っちゃったら、臨也は他の女に目移りしちゃうかもしれない。だから、傷付けては甘やかせて、嫉妬させては優しくする。そうやって、段々離れられなくしていくの。心を縛りつけて、私だけしか見えないようにする。臨也の方から私を求めるようになるまで、ゆっくりと時間をかけて臨也にかかっているブレーキを壊すの」
「……」
「臨也の中には、まだ私を妹として見ている部分が残ってるから。私はとっくに、臨也のことをお兄ちゃんだなんて思ってないのにね」
−−……そう、“お兄ちゃん”と呼ぶのをやめたあの日から……。
新羅は暫く何も言わなかった。
数十秒たった頃、新羅は小さく笑った。
「ははっ、君の愛はすごいよ。歪んでいるはずなのに、まっすぐに思えてくる」
「新羅の一途っぷりもすごいけどね」
「まあね」
新羅がそう言って、フェンスから離れた。
「俺は君達のこと応援してるよ」
治療に行ってくる、と言い残し、新羅は屋上から出ていった。
再び空を見上げる。
それは、壊したくなるくらいに綺麗な空だった。
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