歪んだ愛に溺れて
□first contact
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――……くそッ!
拳を握って壁に思いっきり叩きつけた。
――よりにもよって、シズちゃんが……。
誰が見ても一目瞭然。
確実にシズちゃんは名前に惚れた。
真っ赤になってるシズちゃんなんて初めてだ。
−−近付けたくなかったのに……。
名前の“遊び”だってことくらい解ってる。どうせ、いつかシズちゃんも捨てられるだろう。
でも、それはつまり名前とシズちゃんが付き合うことを意味している。
たとえ“遊び”だとしても、気分が悪い。
保健室にいた二人をまた思い出して、強く奥歯を噛み締めた。
♂♀
ただいま、と機嫌のいい声が玄関から聞こえてきた。
「あ、臨也帰ってたんだ?」
「……おかえり」
ソファに寝転がっていると、名前が上から覗きこんできた。
「あれ?御機嫌ナナメ?」
パサリ、と長い黒髪が顔の横に落ちてくる。
ニヤニヤと笑う名前にムッとして、その髪を掴んだ。
「シズちゃんには近付くな」
俺がそう言うと、名前は更に笑顔を広げた。
「どうして?」
「あいつは危険だから」
「そんなことないよ。平和島君優しいし」
優しい?どこが?
「あいつは化け物だ」
「化け物?何言ってんの?平和島君も人間だよ。臨也の大好きな人間」
「シズちゃんだけは愛せないね」
「……ふーん」
名前から笑顔が消えた。
紅い双眸がギラギラと光る。
「私ねぇ、平和島君のこと気に入っちゃった」
「……」
「新羅のとき以上に、わくわくするんだよね。久しぶりに本気になれそう」
名前の手が下りてきて、手首を掴む。
髪を離すと、名前は再び笑顔に戻った。
「臨也はかわいいね」
チュッ、とリップ音が響いて、額に柔らかい感触が残った。
みるみるうちに、そこが熱を帯びていく。
「私、部屋にいるからね」
視界から名前の顔が消え、階段を上る音がした。
「ははっ……はははははっ……」
静かなリビングに、自虐的な笑い声が響く。
――なんだよそれ……。
熱くなる目頭をごしごしとこすり、そのまま目を閉じた。
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