Dark

□悲しい勝利
3ページ/3ページ




「あれ、岩村君まだ残ってたんだ」


「ああ、ちょっとやることがあってね」



俺は岩村精也という偽名を使い、過疎の進んだ村の高校に通っている



かれこれ3ヶ月ほど過ぎたが、俺はまだ心が開けない




友人や近所の人は偽りの俺の姿を信じ切っており


無防備に心を開いている



“幸村精市”ではなく

“岩村精也”という人物に




「じゃあ施鍵よろしくね。バイバイ」


「うん、また明日」



彼女が教室を出て行った




俺の顔に貼り付けていた笑みも消える




ここにいる誰も俺を知らない




テニスだけじゃなく本当の自分も奪われたんだね、俺は―――





3ヶ月の間、



仮面をつけて



表面上の信頼関係を保って



40何人という命を背負って




―――もう限界だ






不意に頭の中から殴られたような感覚がした




ドク ドク ドク




心臓が痛いくらい鳴る



額には冷や汗



左手は白くなるほど強く握りしめ



右手はつめが皮膚に食い込むほどの力で胸を押さえる





ふと、前を見ると懐かしい顔ぶれがあった




もういないはずなのに




これは幻覚だろうか―――?




それとも、幽霊か―――?





目の前のみんなは悲しい笑い方をしていた



真田が一歩前に出て口を開く




「幸村、俺達はお前なら

………お前なら、優勝しても俺達の命を無駄にはしないだろうと思っていた


難病に打ち勝ち、再びコートに立ったお前なら


しっかりと前を見据えて生きていけると思っていた」


「真田・・・」


「しかし俺達の思いは、
お前を現世にとどめる足枷にしかならなかったようだな」


「そんなことはない!」



俺は必死に叫んだ



「そんなことはない

俺が悪いんだ!

みんなを殺してまで“生"にすがりついた俺が!

俺が……」


「精市、俺達はお前に思いを託した

だが、それでお前を苦しめたくはない



………もう無理はするな」



そう言って柳と真田は手を差し出してきた




俺はそれを掴む




体の痛みは消えた




「精市、これからはまたずっと一緒だ」


「幸村、一緒に行こう?」



*****




次の日、俺は自分が地面に倒れているのを上から見ていた




飛び降り自殺らしい




俺も死んでしまった





けれど、またみんなに受け入れてもらえたから後悔はない




むしろ感謝している





今も、全員一緒にいることが出来てる





END.
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ