-Crow-

□背中の温もり
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か細く小さな声がクロウの耳を捕らえた。






『あなたが私の家族を殺ったの?』





ゆっくりと顔を声の方に向ける。





声の正体は、壁から少し顔を覗かせた人間の小娘だった。





「…オッサンの方はな。オレを恨むっつっても何もしてやらねぇからな」



惰弱な人間の小娘など、相手にする価値もなく、クロウはその場からとっとと去りたかった。



だか人間の小娘はまだ続ける。




『私、一人なの…?』






か細気な声とは裏腹に真っ直ぐ自分を見つめてくる。


何かを確かめるように。





「知らねぇよ。このオッサンが全部悪ぃんだ。オレは何も悪いことしてねぇからな」



オレは人殺しを裁いただけ。




『違う。そうじゃない』

「…?オレを恨んでないのか…?」


『…うん』





クロウは意外な答えに少し戸惑った。




「…何が言いたい」













『私も…一緒につれてって』












絶句した。












烏であるオレに、この小娘は何を言っているのだろうか。




「それ…正気か?」



『私にはもう誰もいないの。友達も、親も、親戚も…




私は外の世界を全く知らない。



だからあなたのそばに置いてほしいの』













だから何。










と言いたいが、なぜか心が許してくれなかった。


よりによって、なぜオレなんだろう。



黙り込むクロウを見て、さらに続けた。



『あなたは私を自由にしてくれた。



だから…あなたのために尽くすから…』




自由…



その言葉に過去の自分がフラッシュバックした。
偽物の幸せに喜び、浸っていたあの頃。



大切だった人間の裏切り。



この娘も、俺たちと同じ被害者なのか?




しかしその考えもすぐ消え去る。



だってこいつは加害者である人間なのだから。




クロウは人間の諸事情に付き合う義理はさらさら無かった。




「オレに尽くす?


馬鹿言え。

お前なんかいても何も役に立たねぇよ。」





『そばにおいてくれるだけでいいの…』






冷たく突き放しても言い寄る人間の娘。

彼女の目は、じっと、クロウを見つめていた。




その瞳は、彼女が見ているのに、自分に見つめられているような気がした。










「本当に…何もしてやれねぇんだぞ?」







『いいの』






クロウ自身、人間とこんなに長く接したことがなく、ましてや小娘の世話など考えたことも無い。



大嫌いな人間に優しくしてやれる自信がない。



赤黒い左目からは彼女の純白な心を読み取っていて、いくら嫌いとは言え、殺す訳にも行かなかった。




さっきまでの人間の価値観がこの小娘に一瞬にして変えられてしまった気がする。



なぜ、あんなに嫌いだった人間にここまで考えてしまうのだろう。







「…そうか。なら、オレの背中に乗れ」




クロウは膝を付き、後ろに手をまわした。



ぇ?と小さく呟く声。


「ホラ、早くしろ」


戸惑う彼女を睨みつけながらせかした。



彼女は警戒しながらクロウに近づく。





『乗るって…』






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